
化粧品の広告表現と商品選びはどう変わる?美容議連発足と消費者への影響
2026年10月16日、自民党の「J-Beauty産業振興議連」の設立総会が国会内で開かれ、林芳正前総務相が会長に就任、高市早苗総理大臣も入会し、最高顧問への就任が要請されていると報じられています。
これは、化粧品やエステなどの美容産業を支援し、官民が連携して海外展開を進める動きです[1]。
「美容の議員連盟」と聞くと堅い政治の話で、普段のスキンケアとは遠く感じるかもしれません。
前身の「J-Beauty産業研究会」が公表した提言には、化粧品の広告表現や薬用化粧品の開発、美容機器の安全性など、私たちの身近な商品選びに関わるテーマが含まれています。
現役の化粧品開発者で特級コスメコンシェルジュの船木彩夏さんが、今回の設立報道や研究会の提言をもとに、今後の美容情報や商品選びがどう変わるのかを分かりやすく解説します。
この記事のポイント
・「J-Beauty」の広がり:化粧品だけでなく美容家電・エステ等も含めた日本発の産業全体を支援し、世界への発信力を高める狙いがある。
・広告表現の見直し論点:現在、活用に制限がある数値データや体験談の広告活用について、条件付きの見直しが検討されており、情報の伝え方が変わる可能性がある。
・消費者の視点と注意点:選択肢が広がる一方で、数字の大きさだけでなく「根拠の中身」や限界を正しく読み解くリテラシーがこれまで以上に重要になる。

美容産業を支援する「J-Beauty産業振興議連」が発足した背景とは
J-Beautyは、日本の化粧品だけを指す言葉ではありません。
研究会の提言では、美容家電・美容機器、ヘア、ネイル、エステなども含めた産業として位置付けられています[2]。
日本の製品やサービスの強みを、業種を超えて世界に伝え、成長につなげようという考え方です。
日本で開発された化粧品は、安全性の高さや品質から、国内だけでなく海外からも高く評価されており、とても人気がありました。
実際に、IFSCC(The International Federation of Societies of Cosmetic Chemists:国際化粧品技術者会連盟)においては、半世紀以上にわたり受賞数世界第1位という圧倒的な実績を維持しており、日本の技術力・研究開発力は世界トップクラスなのです。
しかし近年、海外との競争が激しくなり、市場では韓国や中国をはじめとする諸外国の競争力に押されつつあるといえます。
このような状況を打破するためには、企業ごとの努力に加えて、業界横断の支援が必要だという問題意識から、今回の議員連盟が発足したようです。
設立そのものによって、化粧品のルールが直ちに変わるわけではなく、今後の政策提言や制度の具体化を見る必要があります。
注目が集まる「広告表現」の見直し:現在の日本の広告ルールと、海外製品とのギャップ
消費者にとって身近な論点の一つが、広告です。
化粧品には、広告などで表現できる効能の範囲があります。
日本では、化粧品等の広告は薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)によって定められています。
化粧品は予防や治療といった強い作用を有するものではなく「人体に対する作用が緩和なもの」と定義されているのです。
化粧品の広告には、効能効果や安全性を保証するような表現を避けるなどのルールがあり、試験データや体験談の使い方にも制限があります(使用感を説明する体験談など、認められる表現もあります)。
厚生労働省の通達では「肌にうるおいを与える」「肌を整える」、「乾燥による小ジワを目立たなくする」を含む56項目が定められています[3]。
こうしたルールは、化粧品に医薬品のような治療効果があると誤認させないためにも重要です。
一方で、商品の機能性や優位性を十分に伝えることが難しく、諸外国の商品と比較して、消費者に対するアピール力が弱くなってしまっているという現実もあります。
皆さんは、海外製品の化粧品の方が「効きそう」だと感じたことはないでしょうか。
さらに、海外の化粧品も、日本国内で販売される場合には、薬機法に基づいた広告であるべきですが、薬機法を超えた表現の広告物も、特にSNSやWEB上では多くみられます。
本来は取り締まられるべきものですが、十分に監視できているとはいいがたいのが現状です。
研究会は、数値や体験談を広告でどのように活用するか、効能表現の仕組みをどう見直すかを提言しています[2]。
対象や条件がどう定められるかが、今後の焦点になります。
消費者への影響:数値データや体験談の活用の幅が広がった場合のメリットと落とし穴
仮に、適切な根拠を伴う試験結果を、条件とともにわかりやすく伝えられるようになれば、消費者が製品の特徴を理解する助けになるでしょう。
例えば、保湿に関する説明でも、どのような人を対象に、何を測り、どのくらいの期間で確認したのかがわかれば、広告を読む手掛かりが増えます。
価格や知名度、配合成分だけでは見えにくかった違いを知る機会にもつながりそうです。
ただし、表示できる情報が増えることだけで、誰にでも比較しやすくなり、自分に合った商品が選びやすくなるとは一概にはいえません。
試験方法や条件が異なる数値を並べても、単純に製品の優劣を判断できない場合も考えられます。
消費者に必要なのは、大きく見せた数字だけでなく、その数字が何を意味するかを理解できる説明です。
企業には、魅力を伝えるとともに、その数字が伝えられる内容や範囲をきっちり説明する必要があるといえますね。
商品開発の支援や美容機器の安全性・違法広告への対策は?
研究会の提言には、医薬部外品の審査や手続きの見直しも盛り込まれています。
医薬部外品の審査手続き簡素化による選択肢の広がり
医薬部外品は医薬品と化粧品の中間のような商品です。
薬用化粧品は医薬部外品に分類され、製品ごとに承認された効能効果を表示できます。
例えば、メラニンの生成を抑えてシミ・そばかすを防ぐといったいわゆる美白効果や、シワ改善などを承認された製品があります。
医薬部外品として販売するためには、厚生労働省の承認が必要となり、申請には費用も時間もかかります。
そのため、今回の提言では既承認品と有効成分が同一の場合の審査期間短縮や、原料規格の変更手続きの簡素化などが盛り込まれています[2]。
安全性や品質を確保しながら手続きが効率化されれば、企業が商品を開発・供給する際の負担を減らせる可能性があります。
消費者にとっては、さまざまなニーズに応える商品が登場することが期待されます。
海外展開についても、企業が各国の規制に対応しやすくする支援などが提案されています。
こうした仕組みが中小企業にも届けば、独自の技術や製品を持つ会社が事業を続け、育てる機会になると考えられます。
SNSや通販にあふれる違法広告の監視と安全性確保の課題
産業を育てるには、消費者が安心して利用できる環境も欠かせません。
研究会は、美容機器の安全性・品質に関するルール整備や、海外から流入する違法広告への監視強化も求めています[2]。
美容情報に触れる機会がSNSや通販サイトへ広がるなか、魅力的な宣伝文句から、根拠のある情報を見分けるのは簡単ではありません。
現在も、薬機法では化粧品や医薬部外品、美容分野で使われる医療機器などについて、虚偽・誇大な広告を禁止しています。
産業振興が進むなかでも、誤解を招く説明から消費者を守る視点は必要です[4]。
◯◯製の化粧品は効く、××製の化粧品は安全性が高いなど、イメージだけで語られることのないように、違法広告の監視や安全性に対する表示などルールの整備が重要となります。
これからの美容情報は「根拠の中身」に注目して選ぼう
今後、広告表現の見直しが具体化するとしても、消費者が情報を読み解く視点は変わらず大切です。
まず確認したいのは、紹介されている研究が「成分」についてなのか、「販売される製品そのもの」についてなのかという点です。
成分の配合量や組み合わせ、処方が異なれば、同じ結果が得られるとは限らないのです。
紹介されているデータが、実際に販売される製品で確認されたものかにも注目してみるようにしましょう。
また、試験の対象者や人数、使用期間、比較対象にも注目してみましょう。
「変化が確認された」という説明についても、どの程度の変化なのか、日常生活で感じられる違いなのかは、分けて考える必要があります。
体験談も、一人の経験をすべての人に当てはめることはできません。
企業が研究成果を伝えやすくなることと、消費者が正確に理解できること。
その両方がそろってこそ、制度の見直しが商品選びの助けになるはずです。
まとめ:制度の変化を見据え、納得できる自分に合った商品選びを
今回の議連発足は、美容産業を支援する政治側の体制が整ったという大きな動きといえます。
広告ルールの見直し議論は、企業が研究成果を伝えやすくなる一方で、私たち消費者にとっても「情報の根拠」を見極める目を養う良いきっかけになります。
表面的な宣伝文句に頼らず、自分に合う製品を納得して選ぶための視点を大切にしていきたいですね。
化粧品開発に携わる者としての期待と、消費者への想い
私は今回の動きが、日本の美容産業の成長と、消費者の安心の両方につながってほしいと思っています。
化粧品の開発に長年携わってきた私は、日本の化粧品の処方技術や原料の開発技術は「世界一」だと自負しています。
だからこそ、研究や試験を重ねて得られた成果を消費者に分かりやすく届ける議論が進み、日本の化粧品が世界市場で再び存在感を高めていくことを期待しています。
同時に、伝えられる情報が増えるほど、企業にはていねいな説明が求められます。
魅力的な結果だけを示すのではなく、製品について誠実に伝えていくこと。
その姿勢こそが、「J-Beauty」への真の信頼につながると考えています。
技術の強みを競争力につなげながら、消費者が納得して選べる情報を届ける。
今後も一人の開発者として、そして一人の化粧品ユーザーとして、その変化と未来を追っていきたいと思います。
※本記事は2026年10月16日時点の設立報道と公表資料に基づきます。
参考文献
[1]共同通信.自民・林氏、美容議連を設立「成長産業へ後押し」[Internet]. [place unknown]:熊本日日新聞社; 2026 Oct 16 [cited 2026 Oct 16]. Available from: https://www.kumanichi.com/articles/2047218
[2]J-Beauty産業研究会.J-Beauty産業の成長戦略に関する提言[Internet].[place unknown]:J-Beauty産業研究会; 2026 Apr 20 [cited 2026 Oct 16]. Available from: https://fumiaki-kobayashi.jp/archives/6033
[3]厚生労働省.化粧品の効能の範囲の改正について(薬食発0721第1号)[Internet].[place unknown]:厚生労働省; 2011 Jul 21 [cited 2026 Oct 16]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb7518&dataType=1&pageNo=
[4]厚生労働省.医薬品等の広告規制について[Internet].[place unknown]:厚生労働省:[date unknown][cited 2026 Oct 16]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/koukokukisei/index.html
[執筆者]

船木 彩夏
化粧品メーカー研究員
[出演情報]
2023.12.2 TBSラジオ:井上貴博 土曜日の「あ」
<資格>
・サプリメントアドバイザー
・健康管理士上級指導員
・健康管理能力検定1級
・日本化粧品検定 特級コスメコンシェルジュ
[監修]キレイ研究室編集部



