HSPとは個性であり才能。繊細な感性を力に変える方法と心身を守るセルフケアについてクリニック院長飯島先生にお伺いしました。

「繊細さん」などとも呼ばれ、注目を浴びている「HSP」。HSPとはどのような人を指すのでしょうか?
今回は不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック 院長の飯島慶郎先生にお話を伺いました。

日々の生活に生きづらさを感じていませんか?

現代社会は、情報過多で、スピード重視で、競争が激化しています…なんだか息苦しいですよね。多くの人が、まるで巨大な機械の歯車のように、休む間もなく動き続けることを強いられ、心身ともに疲弊しているのではないでしょうか。
そんな中、音や光、人の感情に人一倍敏感に反応してしまうHSP(Highly Sensitive Person)。
HSPを持つ方は、周囲の喧騒に圧倒され、繊細な心をすり減らしながら生きている。そんな風に表現すると少し大げさかもしれませんが、少なくとも、日々多くの困難を感じているのは事実でしょう。
日常生活での雑音、電車内のアナウンス、蛍光灯のチカチカなど私たちにとってはなんてことない刺激も、彼らにとっては耐え難い苦痛になることがあるのです。
「神経質」「内気」「弱虫」・・・そんなレッテルを貼られ、生きづらさを感じているHSPの人もいるかもしれません。自分だけが「おかしい」と感じ、繊細さを隠そうと、無理をしてがんばり続けている人がいることも事実。
アメリカの心理学者、エレイン・N・アーロン博士は、HSPの中にこそ、特別な才能と可能性を見出しました。
アーロン博士は、長年の研究を通して、HSPという概念を提唱し、繊細な感性を持つ人たちの理解と支援に尽力してきました。HSPは病気ではありません。
内向性や外向性といった性格特性と同じように、生まれ持った気質、つまり神経系の特性と考えられています。
アーロン博士の研究によれば、人口の約15~20%がHSPと言われています。
ではHSPの概念がどのようなものか、その特徴や困難、自分らしく生きるための方法についてお伝えします。

HSPの概念を提唱したアーロン博士自身も、HSPでした。
幼い頃から、騒がしい場所や人混みが苦手、強い光や音に過敏、そして周囲の人の感情に大きく影響されその「生きづらさ」に悩み苦しんでいたようです。
大学院で心理学を学び、心理療法士として働く中で自分と同じように繊細な感性を持つクライアントたちと出会いました。
アーロン博士は、独自の視点から研究を進め、「感覚処理感度」という概念に辿り着き、HSPは、感覚情報に対する処理の深さや感度の高さにおいて、非HSPとは根本的に異なっていることを発見したのです。
1996年、アーロン博士は、その研究成果を世に問う一冊の本を出版します。
『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』というタイトルのこの本は、HSPという概念を初めて体系的に解説したものでした。
アーロン博士は、HSPは決して「欠陥」や「異常」ではなく、個性であり、才能であることを強く主張しました。
HSPには繊細な感性、深い洞察力、共感力があり、正義感が強く、誠実で、責任感も強いといわれています。他人の痛みを自分のことのように感じ取り、周囲の人々に優しく、思いやりのある行動をとることができるのです。
多くの人が、自分の「生きづらさ」の正体がHSPという気質によるものであることを知り、そして、自分と同じように感じている人がいることを知りました。

HSPの特徴

HSPの脳は、非HSPとは少し違うといわれています。
周囲の環境や人々の感情から、より多くの情報を処理していると考えられており、その結果、繊細な感性、深い洞察力、そして優れた共感力を持ち合わせていると考えられます。
その反面繊細さゆえに、刺激過多になりやすく、疲れやすく、傷つきやすいといわれています。

例えば、騒音、光、人混み、強い匂い、慌ただしいスケジュールなど、刺激の多い環境に弱く、疲れやすい傾向があります。
また、自分自身の感情だけでなく、周囲の人々の感情にも影響されやすく、気分の浮き沈みが激しいこともあり、批判や否定的な言葉に深く傷つきやすく、人間関係でストレスを感じやすい傾向もあります。
さらに、HSPは、高い理想を掲げ、努力を惜しまず、完璧を求めすぎるあまり、自分を追い込んでしまうこともあります。不安や心配を感じやすく、ネガティブ思考に陥りやすい傾向もあるようです。あらゆる可能性を検討するため、決断に時間がかかることもあります。
慎重に情報を収集し、分析する・・・それは決して悪いことではありませんが、時に優柔不断と誤解されてしまうこともあるようです。

HSPの人は内向的って本当?

HSPの中には、内向的であったり、情動的に不安定であったりする人もいます。
しかし、HSPはこれらの概念とは明確に区別されるべきものです。
内向的な人は、社交的な場や人混みを避ける傾向があり、一人で過ごす時間を好みます。
これは、HSPと重なる部分もありますが、HSPが社交的な場を避けるのは、必ずしも内向的だからではなく、刺激過多を避けるためであることが多いと考えられています。
また、HSPは、感情の起伏が激しく、不安や心配を感じやすい傾向がありますが、これは情動的に不安定な性格特性と混同されることがあります。
しかし、HSPが感情的に不安定になるのは、必ずしも生まれ持った気質によるものではなく、繊細な感性ゆえに、周囲の環境や人間関係に強く影響を受けているためであることが多いと考えられています。
アーロン博士は、HSPは、内向性や情動性とは異なる、独立した特性であることを強調しています。
HSPの中には、社交的で活動的な人もいれば、穏やかで落ち着いた人もいます。
HSPの多様性を理解することが、彼らを正しく理解するために重要です。

幼少期の影響

HSPは、幼少期からその繊細な感性ゆえに、周囲の環境や人間関係に深く影響を受けながら成長していきます。アーロン博士は、HSPは非HSPよりも幼少期のトラウマに影響を受けやすいと述べています。
虐待やネグレクト、両親の不仲、過保護、過剰な期待…様々な要因がHSPの心の地図に深い傷跡を残す可能性があります。
例えば、HSPの子どもは、親の些細な表情の変化や声のトーンに敏感に反応し、親の感情を察知しようとします。
もし、親が不安や怒りを感じていれば、HSPの子どもは、その感情を自分のせいだと感じ、罪悪感や不安を抱くかもしれません。
また、親から過剰な期待をかけられたHSPの子どもは、常に完璧であろうと努力し、自分を追い込んでしまうかもしれません。
これらの傷跡は、大人になってからも、人間関係、仕事、自己肯定感などに影響を及ぼし続ける可能性があります。
幼少期に親から十分な愛情を受けられなかったHSPは、大人になってからも、愛情を求めて不安定な恋愛関係を繰り返してしまう…そんなケースも少なくないようです。
HSPが自分らしく生きるためには、まず過去の体験を丁寧に振り返り、心の傷を癒す作業が重要となるでしょう。
過去の傷と向き合うことは、決して簡単なことではありません。
しかし、それは、自分自身を深く理解し、より良く生きていくための大切な一歩となるはずです。

繊細な感性を力に変えるための4つのステップ

HSPは、その繊細な感性ゆえに生きづらさを感じることがあります。
しかし、自分の特徴を理解し、適切な対処法を身につけることで、繊細さを力に変え、より良く、そして自分らしく生きることが可能です。
アーロン博士は、HSPが自分らしく生きるための4つのステップを提唱しています。
1.自己認識:
まずは、自分がHSPであることを理解し、受け入れることが大切です。「自分はHSPなんだ」と認めることで、自分の感じ方や考え方を受け入れることができるようになり、自己肯定感にも繋がっていくでしょう。
2.リフレーミング:
過去の経験をHSPの視点から捉え直し、自己肯定感を高める。過去のつらい経験も、HSPという特性を理解することで、新たな視点から捉え直すことができるかもしれません。
3.自己ケア:
自分のニーズを満たし、心身を健やかに保つ。HSPにとって、自己ケアは非常に重要です。自分の心と身体の声に耳を傾け、必要なケアを積極的に行いましょう。
4.社会との調和:
自分の強みを生かし、社会に貢献しながら、自分らしく生きていく。HSPの繊細な感性は、社会にとって大きな力となり得ます。自分の強みを活かせる場所を見つけ、社会と調和しながら生きていくことが、HSPにとっての幸せに繋がるのではないでしょうか。

繊細な心身を守るためのセルフケア

HSPは、繊細な心身を守るために、意識的にセルフケアを行う必要があります。
休息、ひとりの時間、好きなこと、自然との触れ合い、心地よい刺激…HSPにとって効果的なセルフケアはたくさんあります。
自分に合った方法を見つけて、積極的に実践することで、心身のバランスを保ち、より充実した毎日を送ることができるでしょう。
HSPという特性を伝える
HSPは、非HSPとは異なるニーズを持っています。
周囲の人々に、HSPについて説明し、理解を求めることで、誤解を防ぎ、より良い関係を築くことができます。
「私は、音や光、人の感情に敏感で、疲れやすい体質です」「刺激の多い場所では、少し休憩が必要になります」「一人で過ごす時間も大切にしています」など、具体的に説明することで、周りの理解を得られるかもしれません。
また、HSPは、自分の感情や感覚を表現するのが苦手な場合があります。
しかし、自分の気持ちを正直に伝えることで、相手との相互理解を深めることができます。「少し疲れたので、休憩させてください」「騒がしいので、静かな場所に移動しましょう」など、率直に自分の気持ちを伝えられるようになりましょう。
勇気を出して伝えることで、より良い人間関係を築くことができるでしょう。
境界線を引く
HSPは、他者の感情に敏感に反応するため、周囲の人の問題に巻き込まれやすく、自分自身のエネルギーを消耗してしまうことがあります。
自分を守るためには、周囲との適切な境界線を引くことが重要です。無理な頼み事は断る、自分の意見を主張する、時には距離を置く…これらの方法を身につけることで、繊細な心を守り、自分らしく生きていくことができるでしょう。
HSPの強みを生かす
HSPは、繊細な感性、深い洞察力、共感力など、多くの強みを持っています。
これらの強みを活かせる仕事や活動に積極的に取り組むことで、HSPは、充実感や達成感を得ることができると考えられます。
クリエイティブな仕事、共感力を活かせる仕事、専門性を活かせる仕事、自然と関わる仕事などHSPの才能を活かせる場はたくさんあります。
自分の強みを活かせる場所を見つけ、社会と調和しながら生きていくことが、HSPにとっての幸せに繋がるのではないでしょうか。
自分の「繊細さ」を否定したり、隠したりするのではなく、それを受け入れ、活かしていくことで自分の価値を認め、自信を持って生きていくことが大切です。

参考文献
Aron, E. N., & Aron, A. (1997). Sensory-processing sensitivity and its relation to introversion and emotionality. Journal of Personality and Social Psychology, 73(2), 345-368.
アーロン, E. N. (冨田香里, 訳))(2008). ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ . SB文庫.

[執筆者]

飯島慶郎先生
不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック 院長

心療内科医、臨床心理士、総合診療医、内科医、漢方医、産業医など、マルチドクターとして活動。
得意とする分野は「心身症・不定愁訴」に対する漢方薬・向精神薬・心理療法・ケースワークを統合した総合的対人援助。
心身の軽微な不調を入口にクライアントの「人生そのもの」を癒やすことを実践。
近年は特に不登校診療に特化し、多くのこどもたちを改善に導いている。

不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック
https://sites.google.com/view/izumo-iijima-clinic

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