【後編】なぜ肌を乾燥から守る必要があるの?乾燥が改善しない時は?肌の疑問を豊田先生に伺いました!
冬になると肌が乾燥し、ケアをがんばる方も多いと思いますが、そもそもなぜ肌を乾燥から守る必要があるのでしょうか?
今回は、乾燥肌ケアの重要性と、どうしても治らない場合の受診の目安について、うるおい皮ふ科クリニック院長の豊田雅彦先生にお話を伺いました。
そもそなぜ乾燥肌にケアが必要なのか?
そもそも、なぜ乾燥肌をケアしてうるおいのある肌に是正する必要があるのでしょうか?
理由は以下の3つあると考えられます。
(1)乾燥肌による皮膚バリア機能の低下
皮膚バリア機能が低下すると、アレルゲン・異物・刺激物・微生物の角層内通過が容易になります。その結果、皮膚アレルギー感作(アレルゲンなどを異物とみなして排除しようとする免疫機能)や感染症を誘起することとなります。
乾燥肌では皮膚アレルギー感作の主役をなし、皮膚の見張り役として免疫システムに重要な役割を担当している表皮に存在する細胞(ランゲルハンス細胞)の樹状突起が、通常では存在しない角層まで伸長しアレルゲンを取り込みやすくなっています[1]。
すなわち、乾燥肌を是正しないと皮膚の免疫・アレルギー機能が過敏に反応したり、誤作動を生じやすくなってしまうのです。
(2)皮膚にかゆみが出る
乾燥肌の表皮細胞は神経成長因子とよばれる、神経の成長や機能維持を行う物質を大量に放出します。その結果、通常は表皮内には存在しない「かゆみ知覚神経」が表皮内に伸長するため、軽微な皮膚への刺激でもかゆみを感じやすくなる、知覚過敏状態になるのです[2]。
かゆみは必然的に引っ掻く行動を誘発するため、引っ掻いた部位の症状が悪化したり、掻けばかくほどかゆくなるという悪循環に陥ったり、引っ掻き傷からの細菌感染が生じやすくなってしまいます。
顎周りやフェイスラインが乾燥してかゆみがあるという場合は、クレンジングや洗顔でのメイク・汚れの洗い残しや保湿不足が原因になっている可能性があります。一度、スキンケア方法を見直してみるといいかもしれません。
(3)乾燥はキレイの敵
「乾燥はお肌の敵!」といわれますが、乾燥肌は美容面にも大きく関与しています。
肌が乾燥すると、小ジワ・シミ・たるみ・くすみなどの肌悩みの原因になります。
シワにはいくつか種類があり、皮膚の3層構造にしたがって、浅いシワから深いシワに向かって、
・表皮ジワ→乾燥ジワ、ちりめんジワ
・真皮ジワ→1)小ジワ(表情ジワ)、2)大ジワ(老化ジワ)
・皮下組織・筋膜ジワ→たるみジワ
に分類されます。肌の乾燥によってできるのが「乾燥ジワ」で、目尻や口元にできる浅くて細かいジワです。
顔の保湿不足や、間違ったスキンケアにより肌のキメが乱れることで、乾燥ジワができやすくなります。水分が不足した角層は容積がしぼむため、その部分が凹んでシワになります。乾燥ジワは早めに対処しなければ、より深い真皮ジワへ移行・進行してしまいます。
肌のバリア機能が低下すれば、肌のターンオーバーの乱れ・遅延からシミができやすい状態になってしまい、古い角細胞が堆積して光を遮ったり光の反射に異常をきたしくすみの原因にもなります。また、乾燥すると、線維芽細胞(肌にハリや弾力をもたらすコラーゲンやエラスチンを生み出す細胞)にもダメージを与えてしまうため、たるみを引き起こす原因にもなるのです[3]。
医療機関を受診するタイミング
乾燥肌による、手荒れや肌荒れを予防するには、何より乾燥を防ぎ、保湿を行うことが最も重要です。外出時はマスクや手袋などを用い、保湿剤をポケットや鞄に入れて持ち歩きましょう。
保湿剤としてはワセリンのほか、ヘパリン類似物質、尿素、セラミドなどが配合のクリームやローションを用意しこまめに使うようにします。
手洗い・入浴・家事では、洗浄力の強い石鹸やシャンプーを使用すると皮脂膜を洗い流してしまうので、肌に近い弱酸性の低刺激製品の使用をお勧めします。
室内でもエアコンなどの暖房機器の使い過ぎによって湿度が低下するので加湿するようにしましょう。加湿器の使用、洗濯ものの部屋干し、浴槽への水張りなどで加湿し、特に夜間睡眠時のエアコンのつけっぱなしは避けましょう。
乾燥がひどくなると「乾皮症」となり、手指はカサカサ、かかとはカチカチになってしまい、痛みを伴うひび割れやあかぎれが生じます。乾皮症がさらに悪化すると、強い赤みやかゆみ、水ぶくれ状の湿疹を伴う「皮脂欠乏性湿疹」になります[3]。
スキンケアや環境整備に留意し、市販薬を使用しても、かゆみや湿疹などがひどい場合は皮膚科専門医を受診し、症状に合った薬を処方してもらいましょう。
その他、睡眠不足・栄養不足・偏り、ストレス、疲れ、過剰なダイエット、タバコやアルコールの過剰摂取、運動不足などの、生活スタイルや日常生活の因子も肌の乾燥に関わることがあります。
肌のターンオーバーは睡眠不足やストレスによっても滞ります。どんなにスキンケアのみを重要視しても、インナーケアやメンタルケアが順調でなければ、乾燥肌をはじめとする肌トラブルは生じてしまいます。
そして、栄養バランスの取れた食事、肌の清潔、十分な睡眠も、新陳代謝を促して健康な肌を保つ上で重要です[3]。
乾燥肌の改善のためには、乾燥を引き起こしている原因を自己分析し、正しいスキンケアを行うことが最も重要です。それに加え、医療従事者の指導の下で、正しいインナーケアやメンタルケアも必要に応じて取り入れていきましょう。
[参考文献]
[1] Yoshida K, et al. Distinct behavior of human Langerhans cells and inflammatory dendritic epidermal cells at tight junctions in patients with atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol 2014; 134: 856-64
[2] Tominaga M, et al. Itch and nerve fibers with specific reference to atopic dermatitis: therapeutic implications. J Dermatol 2014; 41: 205-12
[3] 豊田雅彦. 「新しい皮膚の教科書-医学的に正しいケアと不調改善」;2022, pp11, 46, 78, 118, 池田書店
執筆者
豊田雅彦先生
うるおい皮ふ科クリニック院長
[経歴]
皮膚科医として、特に皮膚科の患者の中で最も多い悩みである「かゆみ」をとることをライフワークに掲げる医学博士。
「頑固なかゆみもアトピーも1分肌活で必ずよくなる:三笠書房」「新しい皮膚の教科書~医学的に正しいケアと不調改善~:池田書店」など書籍も多数執筆、好評を得ている。
現在までに2,000以上の医学論文・医学専門書を執筆。国際皮膚科学会において臨床 (2002)と研究(2004)の両部門で世界初の単独世界一を受賞。
また、国内外で年間最多250以上の講演会・学会発表・保健所指導を行う皮膚病・かゆみのスペシャリスト。
現在は千葉県松戸市にてうるおい皮ふ科クリニック(皮膚科、美容皮膚科、漢方皮膚科、アレルギー科、形成外科)を開業、院長として日々患者と向き合い、かゆみを失くすことに尽力している。
[専門医]
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医
うるおい皮ふ科クリニックホームページ
http://www.uruoihifuka.com/sp/