気づいたら自分がストーカーになっていた。無意識の行動が相手を傷つけることもある。人間関係を築く上で心がけること教えます。
ストーカーと聞くと、「怖い」「被害に合ったらどうしよう」とイメージされる方が多いと思います。
ですが、そんなつもりがないのにストーカーとして訴えられてしまったということもあるのです。
今回は、特定非営利活動法人 たんぽぽの丘 代表理事で産業カウンセラーの野邑浩子さまにお話を伺いました。
近年増えているストーカー被害
あなたは、ストーカー規制法をご存じですか?
ストーカー行為をした者には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられるというものです。
ストーカー行為とは、尾行、付きまとい、待ち伏せ、面会や交際の強要、名誉棄損、位置情報の無許可取得などがあります。
わりと陰湿な内容に見えるため、ストーカーをやる人の気が知れない、と私たちは思いがちですが・・・。
実は、私が運営するカウンセリングオフィスには、「身に覚えのないストーカー行為で訴えられてしまった」という内容の相談が近年増えています。
警視庁が発表した「令和5年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応状況について」によると、平成12年には2,280件であったストーカー相談件数は、令和5年には19,843件と、約8.7倍に増加しています。
また、ストーカー規制法に基づき、実際に禁止命令等の措置が取られた件数は、施行された平成29年では662件でしたが以後急増し、令和5年では1,963件となっております。
なぜ、今、ストーカー被害や、相談が増えているのでしょうか。
そして、どんな方がストーカー行為をしてしまっているのでしょうか。
その背景には、ある精神症状の関係が懸念されています。
実際に、私がカウンセリングした方のお話をしたいと思います。
まさか、私がストーカー?憧れの相手から訴えられてしまった女性の話
初めて、彼女(Aさん:26歳)に会った時、Aさんはロリータ―系ファッションでカウンセリングに来られました。
茶色のベロア生地のフリルワンピースに、猫耳をつけていました。
普段は図書館司書をしているという彼女は、自身の「依存体質」と、身に覚えのないストーカー行為で訴えられてしまった件について相談にいらっしゃいました。
Aさんは文系大学院を卒業後に私立図書館の司書になりました。
大学時代は文学部であり、ゼミの担当である助教授(Bさん)に在学時から好意を寄せていました。
Bさんは既婚で、家庭もある54歳。
気さくに学生と会話をする方で、ゼミ生以外からも好かれており、いつも学生に囲まれている、明るい先生といった印象でした。
私自身、Aさんのカウンセリングを進める中で実際にBさんからも話しを聞く機会がありましたが、笑顔が多く爽やかで明るく、好印象な方でした。
Aさんは卒業後も、仕事の悩みや相談をしに大学へ行き、Bさんと昼食をを一緒に取ることもあったそうです。
最初の頃は、Aさんが留守電に「相談がある」とメッセージを残すなどをすれば、Bさんも折り返しの電話をし、相談に乗っていたようです。
しかし、段々とAさんからの電話は、仕事の内容ではなく、家族とのことなどに変わっていきました。
Bさんも、助教授として働き家庭もある忙しい身。
仕事や業務に関する悩みならまだしも、既に卒業生であるAさんの個人的な相談を受け続けるわけにもいかず、折り返し電話の回数を減らすなど、少しずつ距離を取っていくことに。
しかし、大学にAさんが来たときは、他の学生と一緒に話をしたり、ランチをしたりと、他の学生や卒業生と同様に接し、とくに拒絶したりは無かったと聞いています。
少しずつAさんと距離を置くようにしていたある日、Bさんが大学から帰宅をしようすると、門にAさんが立っていました。
『自分を待っているのか?』
『何か用があるのか?』
と、Bさんが聞いても、Aさんは何も答えがなかったようで、少し不気味さを感じたとのこと。
このようなAさんによる門での待ち伏せは日増しに増えていきました。
対応に苦慮したBさんは、他の学生や職員にもアドバイスを受け、Bさんは悩んだ結果、警察へ相談に行くこととなったようです。
どうして私が?訴えられて初めて事態に気づいたAさん
一方で、Aさんは、電話で仕事の相談や、家族の相談を先生にしていく中で、先生に対する思いが募っていったようです。
ですが、家庭もある男性に対して、自分の思いを伝えることは迷惑になると思い、Aさん自身は先生への恋心は持たないようにと自分に言い聞かせていたそう。
Aさんの中には、Bさんを家庭から引き離したいとか、自分だけのものにしたいというような思いはありませんでした。
しかし、電話をしても繋がらなかったり、折り返しがなかったり、うまく連絡が取れない日が増えて、『自分はBさんに嫌われているのではないか』と思うようになってしまったそうです。
一度、嫌われているのではないかと、思ってしまうと、なぜ、嫌われなければならないのか、自分が何をしたんだろうと、どんどん思いつめていきました。
(Aさんにさまざまな相談に乗ってもらっているのに、拒否されたら、自分はどうしたらいいんだろう)
そう考えると、Aさんはとても辛い気持ちになり、ついそれを確かめる行動に出てしまったのです。
『なぜ自分を拒絶するのか?』
その理由を聞きたいと思い、Bさんを待っていたとのこと。
しかし、『自分は嫌われているのでは?』と考えると、どう話を切り出せばいいかが分からなくなってしまい、実際にBさんが現れると何も言えなくなってしまう。
そんなやりきれない思いを抱えながら、ただコミュニケーションを取りたかっただけなのに、それが出来ず、相手に不快な印象を与え、ストーカー被害として訴えられてしまったことが、今回の全体像でした。
上記の話を聞いたとき、私は、Aさんの中に、被害者意識が広がってしまい、そこから抜け出せなくなってしまったことに原因があるのだと思いました。
Bさんは、彼女を嫌っていたわけではなく、電話に対しても会議や時間の都合上、難しくなっていっただけ。
コミュニケーションがうまく取れなくなっていただけなのです。
無意識にしていた迷惑行為、その代償と回復の難しさ
発端はコミュニケーションの掛け違い。
ですが、警察から厳重注意を受けた結果、Aさんは自分がしたことを後悔し、大学へは行けなくなってしまいました。
その後、自分の家にこもりがちになり、私とカウンセリングをおこなうようになったのです。
少しずつ、自分を取り戻し、心を整えていったAさんですが、やはり恋愛に関する依存体質の改善は難しく、恋人からDVを受けてケガを負ったり、年上の男性と不倫関係に陥ってしまったり、とAさんは悩みながらも普通の恋愛はなかなかできない状態です。
Aさんは、自分でも気づかないうちにBさんに依存していました。
しかし、何かに依存してしまうというのは珍しいものではありません。
他人や何かに依存してしまう・・・というのは、誰にでも起こりえることなのです。
依存がものではなく人に向かう場合、相手や自分が傷つくことが起こりえます。
人間関係を築くうえで、相手に依存していないか、もしくは相手から依存されていないか、心がけておくことは重要なのではないでしょうか。
[執筆者]
野邑 浩子(のむら ひろこ)
特定非営利活動法人たんぽぽの丘 代表理事
[プロフィール]
「誰もが自由で自立して夢を叶える社会の実現」をモットーに、障害福祉サービスと、コーチング事業の2社を経営。
介護福祉士
1児のシングルマザー
Instagram
@hiroko_1983.tanpopo