「塩でシミが消える」は本当?大切なのは情報を鵜呑みにせずに精査すること

SNSなどで、天然塩を使用した手作り化粧水が「シミが消える」「肌が生まれ変わる」などとバズっているそうです。
クリニックでのレーザーなどを使用したシミ治療はそれなりのコストがかかりますし、いわゆる美白コスメも、プチプラブランドを選んだとしてもそれなりの価格はしますよね。
水と塩だけで本当に効果があったらコスパ的にもうれしい・・・と期待する気持ちは分かります。
ですが、本当に塩にそのような効果があるのでしょうか?
現役化粧品メーカー研究員で特級コスメコンシェルジュでもある船木さんの解説です。

塩水が肌に与える影響・・・化粧品に配合できる?

塩は、皆さんもご存じのとおりNaCl:塩化ナトリウムが主成分で、天然塩の場合そこに海水に含まれる微量なミネラルが含まれています。
実際に塩は化粧品の原料としても使用されており、化粧品では海塩、医薬部外品では海水乾燥物などと表記されています。
訴求的には、抗菌作用や収れん作用に着目して配合されることが多い成分となり、シミ対策や保湿として使用されるものではないといえます。

塩水のミネラルは肌に浸透する?

自家製の塩水化粧水を勧める人のSNSを見てみると
「塩に含まれるミネラルは、分子量が小さく肌の奥へ浸透し、シミやシワに効く」
との発言が見られます。
実際、肌に浸透するのでしょうか?
角層のバリア機能
私たちの肌は、外敵から身を守るため皮膚でほぼ全身が覆われており、その最外層は『角層』と呼ばれるラップのような薄い層です。
ですが非常に優秀なバリア機能を有しており、その構造はモルタルとレンガに例えられています。
レンガに該当する角層細胞が並び、その隙間を水層と油層がミルフィーユのように重なった細胞間脂質が埋めています。

角層を通過できるものとは?
さまざまなものから私たちを守っている角層ですが、「経皮吸収」という言葉もあるとおり、通過させるものもあります。
一般的に、角層を通過できるものは
1)分子量が小さいもの(500Da以下とされる)
2)電荷をもたないもの(非イオン性)
3)両親媒性(脂質にも水にも少し解けるもの)・脂溶性
※LogPで1~4程度のものが経皮吸収しやすいと考えられています
※LogPは値が大きいと脂になじみやすく、小さい(負の値)のものは親水性が高いことを示します
とされています。

塩水にはナトリウムやマグネシウムなどが含まれますが、これらは角層を通過できるのでしょうか?
塩水に含まれる成分は、分子量的には20~120Daのものが多く、サイズ的には通過できます。
ですが、電荷をもっていること(+や-ノイオンを持っている)、きわめて親水性なこと(LogPで-10以下のものがほとんど)により、バリア機能により健康な角層を通過することはできません。
そのため、塩の成分が「肌の奥深くに浸透し、シミやシワを改善する」とは考えにくいといえます。

塩水の肌への効果は?

塩水の成分は、浸透性が低いため、肌の表面の効果を考えると、
1)抗菌作用:皮膚の常在菌のバランスに作用
2)肌表面のミネラルの補給:微量のミネラル(マグネシウムなど)が肌のバリア機能や皮脂分泌のバランスに作用
3)収れん作用:浸透圧による肌表面の若干の引き締め作用
主にはこちらの3点であると考えられます。
ただ、刺激性や、乾燥を招きやすくなる懸念もありますので、低濃度(生理食塩水程度の0.9w/v%)で使用するようにしましょう。

手作り化粧品は無添加で安心?!

食べ物から自分で作る化粧品は、「余計なものが入っていないから肌に良さそう」と思われるかもしれません。
防腐剤や着色剤などは確かに入っていないかもしれませんが、化粧品の原料として認められた成分は、アレルゲンや刺激性のあるものなど、肌から浸透すると良くないと思われるものは除去されています。
例え配合成分を確認した際に、「オリーブ果実油やオリブ油」とあっても、食用油のオリーブオイルとは、同じ『オリーブの果実から搾った油脂』ではありますが、製造工程や精製度などが大きく異なります。
食用は食の安全基準を元に、風味や香り・栄養価などが重視され、化粧品用は肌への安全基準を元に、精製度や安定性・低刺激性などが重視され、製造されています。
そのため、基本的に食べ物から化粧品をつくることは、安全性から鑑みてお勧めすることはできません。
実際に、きゅうりパックや食用オイルでのオイルマッサージなどにより、肌からアレルゲンが浸透することでアレルギーを発症した例はたくさん報告されているのです。
通常は角層があり浸透しにくい成分であっても、肌にキズや肌荒れ・発疹などがあると、バリア機能が乱れ、そこから浸透してしまうことがあります。
そのため、もし口の周りや手指にキズや肌トラブルがあるときに食べているものが付着してしまったら、速やかにふき取ったり洗ったりすることをおすすめします。

SNSが発達し、ほぼすべての人が情報発信できるようになった現在は、情報が氾濫している時代であるといえます。
「何十万人もフォロワーがいる有名な人がおすすめしているから」
「めっちゃバズっていたから」
と、流れてきた情報だけで物事を判断するのではなく、
「本当に?」
「なぜそういえるのかな?」
と、情報をしっかり精査することが、安全に美しい肌へ導くためのカギとなります。
自分の肌に合った信頼できる化粧品を探して、効果的なスキンケアをしてくださいね。

[執筆者]

船木 彩夏
化粧品メーカー研究員

[出演情報]
2023.12.2 TBSラジオ:井上貴博 土曜日の「あ」

<資格>
・サプリメントアドバイザー
・健康管理士上級指導員
・健康管理能力検定1級
・日本化粧品検定 特級コスメコンシェルジュ

[監修]キレイ研究室編集部

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