
骨盤を整えるには?日々の生活習慣や姿勢のクセを整えることが大切です
私たちの体にある骨盤は、上半身と下半身をつなぐ、体の土台となる部分で複数の骨で構成されています。
骨盤の歪みや骨盤矯正といった言葉を目にすることは多いですが、そもそも骨盤は歪むのでしょうか?
今回は鍼灸師の種市敢太さまにお話を伺いました。

骨盤ゆがみ矯正っていうけど、どんな状態?
SNSや雑誌でよく目にする「骨盤矯正」という言葉。
でも、「骨盤が歪む」とは一体どういうことなのでしょうか?
「O脚なので骨盤が歪んでいますね」
「肩こりは反り腰のせいですよ」
こんな言葉を聞いて、自分の骨盤が歪んでいないか不安になったことはありませんか?
実は、「骨盤の歪み」というのは医学的な定義が存在しない造語なんです。
解剖学的に考えると、次のように2つの視点に分けられます。
1)骨盤を構成する骨そのものが変形しているのか?
2)骨盤全体が体の軸に対して傾いているのか?
このどちらを指すかによって、意味が大きく変わってきます。
今回は、この「骨盤の歪み」について、科学的な視点から整理してみましょう。
骨盤は本当に歪むのか?
実際に「骨盤がどれくらい左右非対称なのか」をCTで調べた研究があります。
Badiiら(2003)は、腰痛の有無を問わず323人の骨盤をCTスキャンで分析しました。
結果は次の通りです。
・左右差の範囲:−11mm~+7mm
・非対称性が5mmを超える人:17人(5.3%)
・非対称性が10mmを超える人:2人(0.6%)
つまり、骨盤の左右差が5mmを超える人は全体の約5%、10mm以上はごくわずか。
10mmのズレは外見で判断することがほぼ不可能なレベルです。
「目で見て骨盤の歪みを判断する」というのは、科学的にみて極めて難しいということになります。
さらに、骨盤をつなぐ靭帯は非常に強固で、仙腸関節の可動性はわずか約4mm程度。
骨盤そのものが「動いて歪む」ことはほとんどないのです。
それでも今なお「骨盤が歪む」と言われるのはなぜか?
その答えは、「構造の歪み」ではなく『機能的な歪み』にあります。
『歪み』を引き起こす3つのメカニズム
骨盤そのものは動きませんが、筋肉や神経の働きによって「歪んで見える状態」は生まれます。
その主な要因は次の3つです。
1:関節の可動域制限による歪み
よく「脚の長さが違う」と言われますが、多くは股関節の動きの左右差が原因です。
座り方や立ち方のクセで片側の股関節が硬くなり、結果として脚の長さが違って見えてしまうのです。
つまり、骨盤が歪んでいるのではなく、周囲の筋肉や関節の働きの偏りによるものです。
2:姿勢反射による歪み
「反り腰」などの姿勢の崩れも、骨盤の傾きに影響します。
デスクワークなどで座る時間が増えると、体を曲げる筋肉(腸腰筋・大腿四頭筋など)が緊張しやすくなり、結果として骨盤が前に傾きやすくなります。
ただし、骨盤はもともと前方に少し傾いているのが正常(生理的前弯)です。
特に女性は男性より前傾角が大きいことが報告されています。
「骨盤が前に傾けば、上半身は自然と背中を丸めてバランスを取る」
これが姿勢反射という仕組みです。
3:逃避反射による歪み
痛みを感じると、体は無意識に「痛みを避ける姿勢」を取ります。
これを逃避反射と呼びます。
たとえば右腰が痛いとき、右に体重をかけると痛むため、無意識に左側に重心を移す。
すると左側の筋肉が緊張し、体が傾いて見えてしまう。
これも「歪み」と表現される状態のひとつです。
骨盤矯正と呼ばれる施術の実際
「骨盤矯正」という施術では、構造的な歪みを治すことはできません。
しかし、機能的な歪み(筋肉・神経のアンバランス)にはアプローチできます。
多くの人が骨盤矯正で「腰痛が楽になった」と感じるのは、骨そのものが動いたのではなく、筋肉や関節の働きが整ったからです。
徒手療法の刺激は骨には届かず、皮膚・脂肪・筋膜・浅い筋肉層までに作用します。
痛みを感じる神経もこの層に分布しているため、筋肉の緊張がほぐれれば痛みが軽減し、「骨盤が整った」と感じるわけです。
つまり、「骨盤矯正」という言葉は構造ではなく機能の回復を意味しているのです。
まとめ:骨盤は『動かないけれど、整えることはできる』
骨盤は構造的にはほとんど動きません。
もし歪みがあるとすれば、先天的なものか、または周囲の筋肉・関節の働きによるものです。
「骨盤の歪み」という言葉に惑わされる必要はありません。
大切なのは、日々の生活習慣や姿勢のクセを整えることです。
セルフケアとしておすすめなのは、
手ぶらで30分ほどのウォーキングをすることです。
歩くことで全身の筋肉がリズミカルに動き、姿勢をリセットする効果があります。
ただし、痛みや強い可動域制限がある場合は、無理をせず医院や整骨院、鍼灸院など国家資格を持つ専門家に相談しましょう。
その際は「骨盤矯正」をうたうだけでなく、信頼できる知人がすすめる施術者を選ぶことをおすすめします。
[執筆者]

種市 敢太
和装はりきゅう師
鍼灸とテクノロジーの融合で最先端の鍼灸技術を研究。
都内で鍼灸治療と育毛鍼灸・美容鍼灸をテーマにした鍼灸治療院を2店舗経営している。
業界には珍しく師を持たない鍼灸師として、独学で西洋と東洋の鍼灸技術の学びをし8年間予約困難を継続している。
BODYREMAKER鍼灸治療院
https://body-remaker.com/



