
若い人もヒートショックになるの?対策について林外科・内科クリニック理事長の林裕章先生にお伺いしました
この時季耳にする「ヒートショック」っていったいどういうこと?
亡くなる人もいるって本当?!
危険性や対策について、林外科・内科クリニック理事長の林裕章先生にお話を伺いました。

冬の突然死を招く?!ヒートショックについて
寒さが本格化すると、入浴中の事故や突然死のニュースを耳にすることが増えます。
その主犯格とされるのが「ヒートショック」です。
冬の「ヒートショック」は、ざっくり言うと『急な寒暖差で血圧や脈が乱れ、意識障害や心血管・脳血管イベント、ひいては溺水(おぼれ)事故につながる』現象です。
特に家庭の浴槽で起きやすく、行政機関も「入浴中の事故」として繰り返し注意喚起しています。
ヒートショックになるとどうなる?
典型は「失神(気を失う)」です。
湯船で立ちくらみを起こしたり、意識を失って溺れてしまう(これが最も多い死亡原因です)。
・心筋梗塞・不整脈:心臓の血管が詰まったり、心臓が正常に動かなくなったりする
・脳卒中(脳出血・脳梗塞):脳の血管が破れたり詰まったりする
最悪の場合、浴室での「孤独死」につながります。
発見が遅れれば、若い方でも命を落とすリスクがあります。
ヒートショックはなぜ起こる?
原理は「血圧の急上昇・急降下」です。
冬の脱衣所やトイレは非常に寒いため、体は体温を逃がさないように血管をギュッと収縮させます。
すると、血圧が急上昇します。
その状態で熱いお湯に浸かると、今度は血管が拡張し、血圧が急降下します。
この「急上昇」と「急降下」の激しい変動に自律神経の調節が追いつかず、心臓や脳に過度な負担がかかることでショック状態に陥るのです。
若い人も注意すべきって本当?
本当です。
『高齢者ほど頻度・重症度が高い』のも事実ですが、若い人でも、以下のような条件がそろうと起こりえます。
1)飲酒後の入浴
アルコールは血管を広げ、血圧を下げる作用があります。
その状態で入浴すると、血圧低下が加速し、脱水症状も重なり非常に危険です。
2)生活習慣病予備軍
30代~40代で健診結果が気になる方(高血圧、高血糖、脂質異常など)は、血管のしなやかさが失われ始めており、血圧変動への耐性が弱まっています。
・飲酒後、食後すぐ、睡眠不足、脱水(運動後・発汗後)、長風呂、熱すぎる湯
・降圧薬や利尿薬などを使っている(年齢に関係なく)
政府広報も「高齢者だけでなく家族みんなで対策を」と明確に書いています。
若いからと言って油断しないようにしましょう。
お風呂場やトイレが危険?!対策は?
危険なのは「寒い場所」そのものというより、暖かい部屋との温度差です。
家の中での「温度差」をなくすことが最大の予防策です。
お風呂(最重要)
・入浴前に、脱衣所・浴室を暖める(小型暖房・浴室暖房。なければ湯気を立てる工夫も)
・お湯の温度は41℃以下がおすすめです。42℃を超えると心臓への負担が急増します。38~40℃のぬるめが理想です。
・かけ湯をしっかり:心臓から遠い手足から順にお湯をかけ、体を温度に慣らします。
・飲酒後・食後すぐ・薬の影響が強いタイミングは避ける
・家族がいるなら「ひと声かける」「長いと様子を見る」
トイレ
トイレも冷えがちで血圧が上がりやすい場所。
トイレ暖房・小型ヒーター・厚手スリッパなどの使用がおすすめ。
そして「我慢して駆け込む」状況を減らす(夜間は特に)ことも重要です。
また、排便時に強くいきむと血圧が急上昇します。
普段から便秘対策をして、いきみ過ぎないで済むようにおきましょう。
ヒートショックが起きたら、どうすればいい?
もし家族が浴室でぐったりしているのを発見したら、一刻を争います。
1)意識の確認
まずは大声で呼びかけ、肩を叩きます。
反応がなければ即座に119番通報です。
2)溺水(できすい)を防ぐ
浴槽内で意識を失っている場合、引き上げようとしても重くて持ち上がらないことが多いです。
無理に引き上げようとして時間をロスするより、「すぐに浴槽の栓を抜く」ことが鉄則です。
顔がお湯に浸からないように支えながら、お湯を抜いてください。
3)保温と安静
浴室から出せる場合は、平らな場所に寝かせ、毛布などで体を温めます。
呼吸がない場合は、救急隊が来るまで胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行ってください。
呼吸がある場合も、保温して救急隊を待つ(濡れた衣類は外せる範囲で、毛布など)
入浴中の異変は『まず溺れさせない/心肺停止を見逃さない』が最優先です。
どんな人がなりやすい?
特にリスクが高いのは以下のタイプの方です。
ご自身だけでなく、ご両親にも当てはまらないかチェックしてください。
・65歳以上の高齢者
・高血圧、糖尿病、動脈硬化、脳卒中の既往がある人
・肥満気味の方、睡眠時無呼吸症候群の方
・熱いお風呂(42℃以上)を好む人
・一番風呂が好きな人(浴室がまだ温まっていないため)
・飲酒習慣が強い、長風呂、一人暮らしで発見が遅れやすい
ヒートショックになりにくい体作りでできることは?
根本的な対策は「血管を強くすること」です。
できるだけ若いうちから以下の習慣をつけることが、将来のヒートショック予防、ひいては健康寿命の延伸につながります。
●有酸素運動:ウォーキングや軽いジョギングは血管内皮機能を改善し、血圧調整能力を高めます。
●塩分を控える:塩分の摂りすぎは高血圧の元凶です。ラーメンのスープを飲み干さない、減塩調味料を使うなど、小さな工夫を積み重ねましょう。
●水分補給:入浴前後にコップ1杯の水を飲むだけで、血液のドロドロ化を防ぎ、血圧の急変を緩和する効果があります。
●血圧の管理(家庭血圧を測る、未治療の高血圧を放置しない)
●糖尿病・脂質異常の管理(動脈硬化や自律神経の問題を進めにくくする)
特に、持病のある方は気を付けましょう。
20代~40代の皆さんは、ご自身のリスク管理はもちろんですが、
「実家の浴室は寒くないか?」
「親は熱いお湯に入りすぎていないか?」
と気にかけてあげてください。
親世代へのプレゼントとして、脱衣所用のヒーターを贈るのも素晴らしい親孝行であり、命を守る行動です。
今日からできる「湯温の見直し」と「脱衣所の暖房」で、安全なバスタイムを過ごしてください。
今の季節、ご実家のご両親へ「お風呂場の寒さ対策どうしてる?」と連絡をとってみてはいかがでしょうか?
執筆者

林裕章先生
林外科・内科クリニック理事長
国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。
現在、外科医の父と放射線科医の妻と、全身を診るクリニックとしての有床診療所および老人ホームを運営している。
また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、また医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。
林外科・内科クリニック
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