
毎日眠れない。睡眠環境の整え方について林外科・内科クリニック林裕章先生にお伺いしました
眠れない、夜中に起きてしまう、悪夢を見る、朝起きるのがつらい・・・眠りに関する悩みは尽きないものです。
よい睡眠をとるためにはどうすればよいのでしょうか。
林外科・内科クリニック理事長の林裕章先生による解説です。

なぜ「寝つき」が悪くなるのか?
「春眠暁を覚えず」といいますが、現代社会では季節を問わず睡眠の悩みが尽きません。
仕事や育児に忙しい20代〜40代は、心身のストレスから最も睡眠を崩しやすい世代です。
睡眠は「気合」でコントロールするものではなく、「条件」を整えることで自然に訪れる生理現象です。
寝つきが悪い(入眠困難)のは、意志の弱さではなく、主に以下の4つの生理的・心理的要因によるものです。
自律神経と深部体温の乱れ
本来、夜は副交感神経が優位になり、手足から熱を逃がして「深部体温」が下がることで眠気が訪れます。
しかし、直前までの仕事やスマホで交感神経が昂ぶったままだと、この体温調節がうまくいきません。
体内時計のズレ
平日と休日で起床時刻が違う、あるいは夜更かしが続くことで、脳が「寝る時間」を見失っています。
脳の「警戒モード」
明日の不安や悩み事を布団の中で考えると、脳が「敵に備える状態」になり、覚醒スイッチが入りっぱなしになります。
寝つきをよくするコツ
寝つきをよくすることは、睡眠時間を確保するためにも重要です。
なかなか寝つけないという方は、以下を意識して生活してみましょう。
起床時刻を固定する(最優先)
休日も平日との差を±1時間以内に留めます。
朝、決まった時間に光を浴びることで、約15時間後に眠くなるタイマーが作動します。
例えば、7時に起床してすぐに日光を浴びると、22時ごろには眠くなる計算になります。
入浴時間を逆算して決める
就寝の90分前にお風呂から上がりましょう。
一度上がった深部体温が急降下するタイミングで、眠気がやってきます。
ベッドは「眠るためだけ」の場所にする
20分以上眠れなければ一度布団を出て、暗い場所で静かなこと(紙の本での読書など)をしてください。
ベッドの中での読書はお勧めしません。
脳に「布団=眠る場所」と再学習させることが重要です。
カフェインは午後から減らす
コーヒーやエナジードリンクだけでなく、緑茶や紅茶にもカフェインは含まれています。
寝る直前の「問題解決」をやめる
考え事は紙に書いて「明日やる」箱に入れるのがおすすめです。
寝る直前の考えをストップさせることで、脳の警戒を解除します。
実は、不眠症治療の中心にあるのは、薬よりもこうした認知行動療法(CBT-I)系の考え方です。
「量より質」の誤解と、いびきの正体
睡眠には、量も質も不可欠です。
最初の90分の深い眠り(質)は成長ホルモンに重要ですが、全体の時間(量)が不足すると脳の老廃物が除去されません。
40代までは、最低でも6〜7時間は確保した上で質を追求するのが医学的な正解です。
「いびき」をかいていると、熟睡できていないイメージを持たれるかもしれませんが、いびき=即アウト、ではありません。
ただし、大きないびきや呼吸の停止、朝の頭痛、日中の強い眠気がある、血圧が高めなどの場合、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疑いがあります。
このような場合、脳が酸欠状態で「全力疾走」しているようなものであり、早急な医療機関での評価が必要です。
デジタルデバイスとの「賢い」付き合い方
眠る前のスマホは「ブルーライトが悪い」などといわれますが、それだけが理由ではありません。
より本質的には、スマホなどを触ることで、
・脳が『情報処理モード』に入る
・感情が動く(SNS/ニュース/仕事連絡)
のが問題です。
おすすめは、就寝1時間前から『画面は見ない』こと。
これが理想ではありますが、難しければ、『通知オフ+白黒表示+明るさ最小+刺激の少ないコンテンツ』という『弱毒化』でも改善する人が多いです。
ログ・食生活・サプリメントの正しい活用法
睡眠ログ(スマートリング等)は流行していますが、飲酒や運動が睡眠にどう影響するかを確認する「健康行動のナビ」として優秀です。
主なメリットは2つです。
1)生活習慣の因果が見える(飲酒した日は中途覚醒が増える、運動日は深く眠れる等)
2)『改善の実験』ができる(起床固定、夕方以降のカフェイン中止、入浴時間など)
ただし、数値に一喜一憂しすぎてストレスになる(オーソソムニア)場合は、一度外す勇気も必要です。
睡眠をよくするためには、食生活の見直しも大切です。
・夕食は就寝の2〜3時間前までに(遅いと逆流・覚醒が増えがち)
・アルコールは『寝つきは良くしても睡眠を浅くする』という中途覚醒が増える典型パターンに
・空腹で眠れない人は、少量の軽食(消化の良いもの)を
・カフェインは14時まで
できるところから始めてみましょう。
サプリ・市販薬を摂取している方もいるでしょう。
市販の睡眠改善薬(ドリエル等)の主成分は抗ヒスタミン薬などのことが多く、「一時的な不眠」には有効ですが、常用すると耐性がつきやすく、根本的な治療にはなりません。
サプリメントもあくまで「補助輪」と考え、生活リズムの改善を主軸にしましょう。
寝室環境と悪夢への対策
寝室の環境も、よい睡眠には重要です。
まずは環境を見直しましょう。
効果が出やすいのは、寝具より先に環境です。
・室温・湿度(冬22-23℃/夏25-26℃、湿度50%)
・光(遮光、朝は光を入れる)
・音(ホワイトノイズが助けになる人も)
寝具は「合う・合わない」の個体差が大きいので、まずは枕の高さ・マットレスの硬さで痛みが出ないことを優先してください。
悪夢を見がちで、うまく眠れないという方もいるでしょう。
悪夢は、ストレス、睡眠不足、アルコール、薬の影響などで増えます。
対策は
・まずは適切な睡眠時間を確保(不足が続くと悪夢が増えやすい)
・就寝前の刺激(ホラー、強いニュース、SNS炎上)を避ける
もし特定の嫌な夢を繰り返す場合は、起きてからその夢を「ハッピーエンドに書き換えて想像する(イメージ・リハーサル療法)」という手法が有効な場合もあります。
強い不安・うつ症状が背景にあるときは、睡眠外来/精神科的な評価が助けになります。
専門家に相談しましょう。
専門機関(睡眠外来)を活用するタイミング
「ただ眠れないだけで・・・」と遠慮する必要はありません。
問診や精密検査(PSG)を通じて、原因が心理的なものか、物理的な呼吸障害かを見極めます。
睡眠障害を引き起こす原因がある場合には、適切な治療(CBT-IやCPAPなど)を行うことで、日中のパフォーマンスが劇的に向上することもあります。
特に「いびき+日中の眠気」「夜間頻尿」「高血圧」などがある方は、自己流で粘るより一度受診をお勧めします。
執筆者

林裕章先生
林外科・内科クリニック理事長
国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。
現在、外科医の父と放射線科医の妻と、全身を診るクリニックとしての有床診療所および老人ホームを運営している。
また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、また医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。
林外科・内科クリニック
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