[後編]日本人は無香が好きな理由。日本人の清潔感とは??|キレイ今昔物語

キレイ研究室は中立の立場から「キレイ」を発信しています。
香りを楽しむ文化について、日本やヨーロッパの歴史も含めて、前編ではお話しいたしました。
後編では、なぜ現代の日本人は無臭、もしくは微香を好まれる方が多いのか?
その理由を探ってみたいと思います。

日本人は無香が好きな理由。日本人の清潔感とは??

平安時代に楽しむための香が生まれ、香りを身にまとってきた日本人ですが。
実は、戦国時代から江戸時代にかけ、庶民にも入浴や行水が一般化してきたころから、あまり強い匂いを好まない傾向が出てきたようです。
体を清潔に保てるようになり、ニオイをそこまで気にする必要がなくなったことと、遺伝的に日本人に腋臭を持つ人が少ない(黒人:100%、白人:80%、日本人:10%程度といわれている)ため、強い香りで体臭をマスキングする必要がなかったためだと思われます。
戦国時代に日本を訪れた宣教師のルイス・フロイスも「日本人は強すぎる匂いに耐えられないし、またそれを喜ばない」と記述しています。
幕末に日本を訪れたシュリーマン(著作に清国と日本の旅行記がある)も「日本人が世界で一番清潔な国民であることは異論がない」と述べています。
日本は水が豊富で水質が良かったことや温泉が豊富に湧いていることなども、日本人の清潔さに関係しているでしょう。
そのような経緯から、日本人は強い匂いを人前で発することはあまり良しとはせず、自分の臭いや汚れを落とした上でほのかな匂いを漂わせる程度の方が慎ましいとして好むようになったと考えられています。
江戸時代には、現代と同じく、体臭を隠すためのマスキングとしてではなく、伽羅の油(鬢付け油のことで今でいうヘアオイル)の匂いを楽しんだり、匂い袋や香り袋(サシェと呼ばれるポプリなどを詰めた袋のようなもの)を袂に忍ばせたりして、おしゃれや粋を表すアイテムとして香りが楽しまれていました。

現代の日本人が好む香りとは?1位はコチラ!

ほのかな香りは好きだけど、強い匂いを嫌う方は多いのではないでしょうか?
実際に、日本人の20代から60代までの男女430名に好きな香りと嫌いな香りを調査した結果がありますので、それぞれ上位5位までをご紹介したいと思います。(Japanese journal of applied psychology 39 (1), 25-32, 2013-07)

★好きな香りランキング

1位:レモン
2位:甘い
3位:柑橘系
4位:バラ
5位:ラベンダー

★嫌いな香りランキング

1位:タバコ
2位:甘い
3位:強い/きつい香り
4位:香水
5位:芳香剤

好きな香りを見てみると、シトラス系の香りの人気が高いのが分かりますね。
そして、嫌いな香りランキングを見ていると、1位のタバコは分かりますが、好きな香りランキングの2位に入っていた「甘い」が嫌いなランキングの2位に入っている点が面白いところです。
甘い香りは香水やシャンプーなどでも一定の人気を誇りますが、好き嫌いが沸かれる香りのようですね。
また、3位に入っている強い/きつい香りからは、やはり日本人はほのかな香りを好む傾向があることが伺えますが、4位の香水、5位の芳香剤を見ると、そもそも香りがついていることを好まない傾向すらうかがえます。

強い香りはイヤ!「香害」とは??

最近、海外製の強い香りを放つ柔軟剤の流行などから、「香害(こうがい)」という言葉が使われるようになっています。
公害をもじってつくられた言葉で、芳香剤や香水を過剰に使用することによって、人に不快感をもたらすという意味で使われています。
シャンプーやコンディショナー、コスメティック、柔軟剤、フレグランス・・・。
普段、私たちが身にまとっている「匂い」はたくさんあります。
一つ一つはとても良い匂いですが、使う量が多くなったり、他の香りと混ざったりするとまわりの方に不快な思いをさせることになってしまうかもしれません。
臭いというのは、湿度が高く、空気中に水蒸気の分子が多いときには、より強く感じやすくなるそうです。
比較的日本人がニオイや香りに敏感なのは、湿度の高い日本の気候風土にも関係があるといわれています。
犬の鼻がいつも湿っているように、鼻にある嗅覚組織も、ある程度湿度が高い方が臭いを感じ取りやすくなります。
つまり、湿度の高い日本の夏は、自分から発する臭いのケアはもちろんですが、まとう香りにも十分注意する必要があるのです。

神仏に対する儀式のため、防虫や殺菌のため、体臭をマスキングするため、自分をアピールするため…匂いや香りの持つ役割は、時代の流れとともにどんどん変化していき、現代でも私たちの生活から切り離すことはできません。
嗅覚は記憶との結びつきも強く、香りの記憶は前編でお話しした恋愛の記憶との結びつきもありますが、故郷や記憶やや幼いころの思い出とのつながることで、ノスタルジックな気持ちになったことはありませんか?
花火やスイカの香りから、学生時代の夏休みをイメージしたり。
昔好きだったお菓子や母親の化粧品の香りから、幼少のことを思い出したり。
香りとともにある記憶は、とても大切なものなのかもしれません。
古来より私たちの生活に密着してきたさまざまな香り。
これからも上手に付き合っていきたいですね。

[文:キレイ研究室研究員 船木(化粧品メーカー研究員・サプリメントアドバイザー・健康管理士一般指導員・健康管理能力検定1級)]

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