
化粧品が食物アレルギーの原因になる?食べるものと化粧品原料との違いについてお教えします。
食べられるもので作られた化粧品は安全?
『すべて食べられる素材で作られているので、お肌にやさしく安心安全な化粧品です』
このような表記の化粧品を見つけたら、あなたはどう感じますか?
「そうなんだ。食べてもいいものだったら、安全ね」
こう思われる方も多いかもしれません・・・ですが、本当にそうなのでしょうか?
今回は、食べるものを肌に触れさせることについて、じっくり考えてみたいと思います。
食べ物を肌に塗るって、実は危険?
ヨーグルトパック、きゅうりパック、レモンパック、小麦パック、ハチミツパック・・・。
家にある食べ物でできるパックは、手軽にできてコスパも良いとして、たびたび人気を集めます。
上記のようなものを試したことがある方もいるでしょう。
ですが、実はコレ、食物アレルギーのリスクを上げてしまう行為なのです。
食物アレルギーは、主に食物に含まれるたんぱく質がアレルゲン(抗原)となって発症します。
アレルゲンが含まれたものを食べたり飲んだりすることで起こるイメージがあると思いますが、実はアレルゲンが皮膚や粘膜に付着することでも食物アレルギーを起こすことが分かっています。
実際に、きゅうりパックにより、韓国内できゅうり・メロン・スイカなどのウリ科の植物による食物アレルギーに至ったとの報告もあがっています(出典:Journal of Environmental Dermatology and Cutaneous Allergology 2(4): 344-344, 2008.)。
また、日ごろから魚介類に触れる機会の多い寿司職人が、魚介類のアレルギーを発症するという例や蕎麦職人やそば粉の販売業者に起こるそばアレルギーなどの例もあります。
これらは、経皮感作による食物アレルギーが原因と考えられます。
アレルギーの原因となる物質アレルゲンが皮膚から侵入し、アレルゲンを異物と見做した免疫機能が反応してしまったのです。
え、化粧品が食物アレルギーの原因に?!
経皮感作による食物アレルギーが注目された事例として、化粧品(石けん)が原因のものがあります。
その石けんを使用する前は、食物アレルギーの症状のなかった方が、使用後にその石けんに含まれる成分に関連した食物アレルギーに罹患していたことが報告されたのです。
厚生労働省や日本アレルギー学会などの調査により、全国で2,000件以上の方に影響が出たことが分かっています。
原因は、保湿を目的に配合されていた原料に含まれる小麦由来のたんぱく質によるものと考えられています。
小麦由来のたんぱく質が肌から入ることでその成分に対する抗体ができ、小麦を食べるとアレルギーが発症してしまったのです。
幸い、その石けんの使用を止めたのち、食物アレルギーの症状は改善傾向となっている方が多いそうです。
小麦由来の原料以外にも、カルミン(コチニール色素)、トウモロコシ、大豆、カラスムギ由来の成分を含有した化粧品を使用された方に、それらの成分に関連した食物アレルギーの発症例が日本国内で報告されています。
アナフィラキシーショックを起こした例もあり、注意が必要です。
食物アレルギーに関しては、二重抗原暴露仮設(dual allergen exposure hypothesis)という、2008年に英国の医学博士であるG.Lack氏により発表された説があります。
食物(抗原)が体内に侵入する経路は2つ(口からと皮膚から)あるというものです。
私たちの体は、口から消化器官に入ってくる飲食物は体内に入っていても良いと認識するためアレルギー反応を起こしにくいのですが、通常の侵入経路ではない傷口などを経由した皮膚からの侵入だと、アレルゲンだと認識されアレルギー反応が起こりやすくなると考えられています。
どうやって対策すべき?
食べ物に触れることでアレルギーを起こす可能性があるといわれても、日常生活を送ろうとするうえで、それらに全く触れないわけにはいきませんよね。
でも、大丈夫。
私たちの皮膚には、バリア機能が備わっており、通常は、外部からの異物の侵入を防いでくれています。
肌の角層(もっとも外側の皮膚)は、ケラチンでできた強固な角層細胞が並び、その間を細胞間脂質がぴっちり埋めたような構造をしていて、レンガとモルタル(セメント)に例えられます。
レンガをモルタルで埋め、重ねてできた壁を突破して侵入するのは難しいですよね?
そのため、健康な状態の肌であれば、そこまでアレルゲンの侵入を恐れる必要はないでしょう。
ですが、レンガがところどころ抜け落ちていたり、ひびが入っていたりしたらどうでしょうか。
小さなものは、容易に侵入できてしまいますよね。
つまり、肌が荒れていたり、キズや湿疹があったりして、肌のバリア機能が乱れているようなときは、簡単に異物が入ってしまうような状態のときは、注意が必要となります。
このようなときはマスクや手袋を装着し、体内へ侵入しないように対策しましょう。
場合によってはワセリンなどを塗って保護しても良いでしょう。
食物を扱う仕事の方など、接触する頻度の高い方は、特に注意してください。
同様に、食べこぼしや食べかすを口の周りにつけたままにしておくなども、リスクがあるといえます。
また、食べ物以外にも、花粉やダニ、ハウスダストなどのアレルゲンも皮膚から侵入します。
肌を保湿するなどして健やかな状態にしておき、バリア機能を整えておくことは、アレルギー対策を考える上でも大切であるといえます。
特に赤ちゃんのように免疫がまだ不安定な時期は、肌を保湿・保護し、アレルゲンの侵入を防ぐことはとても重要です。
化粧品に使えるものと食べるものの違い
これまでのことから、
『食べられるもの=肌に塗ってもいではない、むしろリスクがある』
ということは分かっていただけたのではと思います。
「あれ、でも化粧品によっては牛乳とか食べ物由来の成分入っているけど・・・?」
と思われた方、するどいです。
現在も、多くの食物由来の化粧品原料が存在し、さまざまな化粧品に配合されています。
ただ、食べ物と化粧品原料には、大きな違いがあります。
食物由来の成分を化粧品の原料として使用する際は、化粧品グレードに精製され、アレルゲンとなりうるものは基本的には除去されているのです。
化粧品の原料は、日本化粧品工業連合会(粧工連)の策定した「化粧品安全性評価に関する指針(2015)」において定められた9つの必須項目によって、安全性が担保されています。
上記9項目をクリアした原料のみ、化粧品に配合が可能となります。
そのため、化粧品でアレルギーを起こすリスクに関しては、通常、そこまで心配する必要はありません(ただし、もともとアレルギーを発症している成分に関しては、その成分の入った商品は使わない方がよいでしょう)。
最近、自然やエコなどに関心が高まり、手作りコスメが一部で流行しています。
きちんとした化粧品グレードの原料を使用する場合はいいのですが、石けんづくりなど、場合によっては食用のオリーブオイルやココナッツオイルの使用を勧めていたりすることもあります。
食用グレードと化粧品グレードは、精製に関する基準や安全性に対する考え方が異なるということを意識して、コスメづくりを楽しんでくださいね。
化粧品グレードが手に入らない場合は、医薬品グレードである日本薬局方(局法)のものを薬局などで購入して使用することをおすすめします。
また、その際は「肌に良さそう」「いい香りにしたい」として、果汁や牛乳、ヨーグルトなどの食べ物をそれらに配合することも絶対に避けましょう。
食べ物が肌に触れることに、メリットはありません。
正しい知識を持って、化粧品を選びましょう。
[執筆者]
船木 彩夏
化粧品メーカー研究員
[出演情報]
2023.12.2 TBSラジオ:井上貴博 土曜日の「あ」
<資格>
・サプリメントアドバイザー
・健康管理士上級指導員
・健康管理能力検定1級
・日本化粧品検定1級
[監修]キレイ研究室編集部