江戸時代の話じゃない!急増中の梅毒に気をつけて!梅毒について森女性クリニック院長の森先生に伺いました!

歴史小説や漫画の中で遊女が罹患し、死に至る病のイメージがある梅毒。
大昔の病気のように思いますが、実は現代の日本で急増中ってご存知でしたか?
知ってほしい、梅毒について、森女性クリニック 院長の森久仁子先生にお話を伺いました。

梅毒が増えてるって本当?感染の原因は??

梅毒は感染症法の5類感染症であり、梅毒トレポネーマと呼ばれる細菌に感染することにより引き起こされる、男女ともに感染する性感染症です。
梅毒トレポネーマは直径0.1~0.2㎛、長さ6~20㎛のらせん状の菌で、粘膜や皮膚の小さい傷から感染します。
その後速やかに全身に散布され、あらゆる臓器に炎症をおこし、他の病気と紛らわしいさまざまな症状を引き起こすため、「偽装の達人」と呼ばれています。
厚生労働省のデータによると、罹患者は2011年頃から報告数が増加し、2021年以降に特に大きく増加しています。
なんと、2016年には2011年の約5倍、2022年には2016年の約2倍に増加しました。
当院でも2022年には2020年の約5倍に増加していますが、メディアの情報で心配になり、受診される方が増えたことも一因と考えられます。
梅毒は異性間・同性間の性行為や、キスでも感染します。
梅毒トレポネーマは罹患者の精液、膣分泌物、血液、浸出液に含まれます。
梅毒トレポネーマが、口腔・膣・亀頭表面・直腸などの粘膜にある小さな傷を通って、体内に入って感染します。
梅毒トレポネーマは熱や乾燥に弱いため、一度粘膜や体液から離れると、生存しにくい性質を持ちます。
そのため、トイレの便座に座るなどの、日常生活でうつる可能性は低いようです。
性感染症診断治療ガイドライン(2020年)によると、男性の感染経路は99%が性的接触で、そのうち65%が異性間、19%が同性間です。女性の感染経路も99%が性的接触で、そのうち90%が異性間、1%が同性間です。

命の危険も…梅毒に罹患するとどうなる?!

第1期梅毒とは感染から約1ヶ月たった時期であり、性器・肛門・口に痛みのない「初期硬結(しょきこうけつ)」という硬いしこりができます。
その後同部位に「硬性下疳(こうせいげかん)」という潰瘍ができますが、これらは自然と消えます。
男性では亀頭と陰茎の間の部分(冠状溝)や包皮・亀頭部に、女性では膣内・大小陰唇に好発します。
また、鼠径部のリンパ節が腫れることもあります。
第2期梅毒は感染から約1~3ヶ月後以降の時期で、梅毒トレポネーマが血液を介して全身に運ばれます。
発熱・倦怠感・頭痛・のどの痛み、リンパ腺の腫れ、「バラ疹」というバラのような発疹、「丘疹性梅毒」という赤褐色の丘疹、「扁平コンジローマ」という扁平状のイボ、梅毒性脱毛、「梅毒性粘膜疹」という口腔内の紅斑や腫れなどが出現します。
症状は出たり消えたりを繰り返します。
第3、4期梅毒は感染から約3年後の時期です。
あらゆる臓器に硬いしこりやゴムのようなしこりができ、周りの細胞を破壊します。
心臓血管系や中枢神経系が侵され、大動脈瘤破裂・神経障害・心不全がおきることがあります。
梅毒は未治療でも時間の経過とともに症状が消えるため、自然によくなったようにみえます。
しかし、病気が治癒したわけではありません。
症状が消えても密かに進行し、再び症状が現れる頃には全身に影響がでるため、後遺症が残る場合もあります。

もしかしたら…と思ったときに。検査をしたい場合はどうすればいい?

梅毒の病原体である梅毒トレポネーマは培養検査で検出することが難しいとされています。
さらにPCRでの検査もまだ一般的に普及していないので、現在では医療機関でTPHA・STSという2種類の血液検査を組み合わせて調べます。
症状がない方は自費診療で、症状がある方は保険診療で検査できることが多いですが、保険診療になるかどうかは医療機関によりさまざまです。
受診を検討している医療機関に、事前に問い合わせましょう。
保健所でも梅毒の血液検査を無料・匿名で受けられますが、日時が限られている場合がありますので、近くの保健所に実施状況を確認する必要があります。
TPHA・STSともに陽性の場合は梅毒や、感染の既往が考えられます。
STS陽性でTPHA陰性の場合は感染初期や、生物学的偽陽性反応(梅毒でなく、炎症や膠原病などの他疾患が原因でSTSが陽性となっている)が考えられます。
どちらであるかは、約4週後にSTS・TPHAを再検査し、TPHA陽性やSTS値の上昇があれば、梅毒と診断できます。
STSが陰性でも感染後4週以内と思われる場合は、2~4週後にSTSを再検査すると陽性となる場合があります。
このように検査の結果を組み合わせて、現在の感染状況を個別に診断していきます。
また梅毒とHIVの重複感染が10~20%報告されています。このため梅毒に感染したことがわかった場合、HIV検査(血液検査)を受けることが推奨されています。

梅毒は治るの?治療の内容は??

治療としては、2~12週間程度薬を服用します。
注射の治療の場合もあります。
第1期梅毒は2~4週間、第2期梅毒は4~8週間、第3期梅毒は8~12週間薬を服用し、症状がなくなって、STS値が治療前の1/4~1/2(測定法により異なる)に低下していれば治癒と判断し、内服終了となります。
内服終了後も再び上がってこないかどうか、1年程度定期的に血液検査をうけるほうが好ましいです。
STS値がまだ陽性の状態で内服終了になるため、不安に思われるかたもいますが、梅毒トレポネーマがいなければ数ヶ月かけてSTS値は低下していきます。
梅毒罹患歴があればTPHA値は陽性のままであることが多いです。
治療中は体内の梅毒トレポネーマが死滅していない可能性があるため、性行為は避けましょう。
治癒は血液検査で判断するため、性行為をしてもいいかどうかは、主治医に確認しましょう。
内服終了後も梅毒トレポネーマが残存し、STS値が上昇してくることがあるので、治癒していると自己判断しないことが大事です。

赤ちゃんを望む方は、早めにパートナーと確認することが大切です。
梅毒は、妊娠中の女性が感染すると、赤ちゃんにも影響があることが分かっています。
胎盤を通して胎児に感染すると、流産や死産、低出生体重、先天異常を引き起こす危険があります。
早期先天梅毒では、生まれたときは症状がないことが多いですが、生後数ヶ月以内に赤ちゃんに水疱性発疹などの皮膚症状・全身性リンパ節腫脹・肝脾腫・骨軟骨炎・鼻閉がおきます。
後期先天梅毒では、学童期以降にHutchinson(ハッチンソン)徴候(実質性角膜炎・内耳性難聴・Hutchinson(ハッチンソン)歯:歯のエナメル質の形成不全)がでます。
梅毒の検査は日本においては母子保健法で義務付けられた検査となり、妊婦検診の中で必ず行われる検査です。
しかし妊娠中に治療をしたとしても、赤ちゃんへの感染は完全には防げるものではありません。
つまり、妊娠中の検査で感染が分かっても遅いといえるのです。
これから妊娠を希望される方は、症状がなくても妊娠する前に血液検査を受けておくことをお勧めします。
性感染症は人との出会い方が多様化する中で、一部の人の話ではなくなり、感染するリスクが身近になっています。
不特定多数の相手との性行為も性感染症のリスクを上昇させます。
梅毒だけでなく性感染症の予防として、性行為の際にコンドームを装着することが大事です。
ですが、コンドームが覆わない部分から感染する可能性があるので、残念ながら100%の防止策にはなりません。
このため、パートナーと一緒に性感染症の検査を受けて、お互いに感染していないか確認することが大事です。
現代にも蔓延る梅毒。
治療が可能な病気なので、予防と早期発見に努めたいですね。

[執筆者]

森久仁子先生
産婦人科専門医、医学博士
大阪医科大学を卒業後、同大学産婦人科学講座に入局。
同大学産婦人科学講座助教、和歌山労災病院をへて、平成25年和歌山市に森女性クリニックを開院。
プライバシーに配慮したクリニックで、産婦人科としての枠組みだけではなく、女性医療の充実を目指すべく診療を行っている。

森女性クリニック
https://www.mori-ladies.com/

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