寒くなると、心身ともに不調になりがち。今回は漢方を使ったケアについて幾嶋先生にお話を伺いました。
寒くなると、心身ともに不調になりがち。
今回は漢方を使ったケアについて医療法人幾嶋医院の院長である幾嶋先生にお話を伺いました。
秋口から増える冷え。特に女性は要注意
秋口の気温差が激しくなる頃から次第に抑うつ感を訴える人が外来に増えてきます。
身体の冷えは思わぬところにトラブルを起こしてきます。
「寒くないからまだ暖房は入れなくていい」と考えていると、いつの間にか病気が進行したり、取り返しのつかないことになったりしかねません。
特に高齢者や女性などは筋肉量が男性より少なく、冷え症になりやすいのです。
それもそのはず、体温の40~60%は筋肉で運動した時に作られるので、特にきゃしゃなタイプは要注意です。
身体の中心部の体温は「深部体温」と呼ばれ、頭、首、胸、腹、脊椎、骨盤などが相当し、ここは脳や内臓がある部分になります。生命活動は言い換えれば生化学反応であり、それを担うのはそれぞれの臓器にある様々な酵素です。
酵素は37℃のときに最大の効果を発揮しますので、深部体温は37±0.2℃という狭い範囲に保たれていなければならないのですが、身体が冷えてくると深部体温はそれ以下になります。
脳の一部が低温にさらされると働きが悪くなり、集中力がなくなったり、不安を解消するプロセスが働かなかったり、時には抑うつ感が出ることもあります。
冷えの影響は全身に
隋の時代に書かれた諸病源候論(しょびょうげんこうろん)という漢方の本には「身体が冷えると痰がでる」ということが記載されています。
部屋の温度を上げたり、身体の温まる食べ物や飲み物だけでも痰が出なくなったり、のどの痛みがなくなったりします。深部体温が下がるとそれを補うため、他部位の皮膚などから血液を深部体温領域に移動させ内臓の温度を維持しようとします。
そうすると他の部位の皮膚などには血液が行かなくなり、その部分の機能不全を生じます。
その時、血管を収縮させるノルアドレナリンという交感神経系のホルモンが分泌されますが、それが脳に働くと、精神的な症状が出現します。怒りっぽくなったりイライラしたり不安感が強くなったり動悸がしたりします。
血管を収縮させる部位が皮膚であれば、新陳代謝が低下し、乾燥した皮膚になり、かゆみも生じます。
保湿剤は一時的には有効ですが、冷えを改善しない限り乾燥肌は治りません。体をしっかり温めるとかゆみが和らぎ、数日すると乾燥も改善してくると思いますので、ぜひ試してください。
血管を収縮させる部位の皮膚が頭皮であれば、髪の毛に栄養が行かなくなり抜け毛になります。心臓から一番遠い部分の頭皮は頭頂部ですからこの部分の毛が薄くなります。血行の悪い所にいくら栄養剤や育毛剤を振りかけても抜け毛は改善しません。
体の深部から温めることが重要です。
漢方薬は冷え症の精神症状と身体症状の両方に効果があります。
漢方薬で深部体温を温め、脳や内臓の血行を改善し、皮膚や頭皮などの循環を元通りにすれば、かゆみや抜け毛も防げ、精神状態も良好に保つことができるようになります。
つらい冷え症に悩まれている方は、漢方を処方してもらうというのも解決策の一つです。
漢方に詳しい先生を探して受診してみるのも良いでしょう。
執筆者
幾嶋泰郎先生
医療法人いくしま医院理事長
[経歴]
1955年生まれ。
1980年に川崎医科大学を卒業し、母校の外科で2年間の研修。
その後福岡大学産婦人科で研修し、第一生命保険会社で診査医をしながら久留米大学産婦人科で学位を取得。
1999年、父の診療所を継承し福岡県柳川市で無床診療所医療法人いくしま医院を開業し、現在は理事長を務める。
デイサービス、グループホーム、小規模多機能施設、住宅型有料老人ホームをスタッフに支えられながら運営している。
開業後に漢方に目覚め、柳川漢方研究会(現在、漢方やながわ宿)を立ち上げ、初心者の育成と自身の研鑚に努めているかたわら、新見正則先生が主催するYouTube「漢方jp」に出演し講演や対談を通して、新しい漢方の在り方を模索している。
2022年4月よりオンライン診療を開始。自ら球脊髄性筋萎縮という難病(10万人に1人)を背負い、車椅子で診療を続けている。
[所属学会など]
日本東洋医学会 日本産婦人科学会 日本老年医学会 福岡医師漢方研究会
いくしま医院ホームページ
https://www.ikushima.or.jp/