【後編】ピルを飲むメリットやデメリット、ピルを飲むのが向いていない人っている?森女性クリニック 院長、森先生に伺いました!

女性にとってさまざまな効果が期待されるピル。
今回は森女性クリニック 院長の森久仁子先生に、ピルを飲むメリットやデメリット、ピルを飲むのが向いてない人についてお話を伺いました。

ピルのメリットとは

ピルは正しく服用すると、99.7%の避妊効果があるといわれています。
避妊目的で処方されるだけでなく、月経痛・月経前症状・月経不順・子宮内膜症・ニキビの改善などの効果があります。
月経前症状に関しては、月経前の腹痛・頭痛・情緒不安定・イライラ・倦怠感・のぼせなどの症状が改善します。
子宮内膜症に関しては、内膜症に伴う月経痛を軽減するだけでなく、病巣を縮小させる効果も期待できます。
また、卵巣癌・子宮体癌・大腸癌のリスクが低下することが報告されています。

ピルのデメリットとは

女性ホルモンの変動により出てくる症状と、重篤なリスクとして血栓症や乳癌・子宮頸癌リスクの上昇があります。
かかりつけの産婦人科で提示された検査(子宮頸がん検査・エコー検査・血液検査など)を定期的に受診し、安心して内服できるようにしましょう。
以下、もう少し詳しくお話しします。

●女性ホルモンの変動により出てくる症状
一時的であることが多く、3ヶ月以内におさまるとされています。
3ヶ月以上服用しても続く場合は、かかりつけの産婦人科で相談しましょう。
主な症状は吐き気、不正出血や下腹部痛、乳房の緊満感、気分の変動、むくみです。
不正出血は、内服するリズムを整えることで改善することが多いです。

●血栓症
ピル内服で血栓を形成しやすい状態になることが知られており、血栓症のひとつである静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高くなります。
VTEとは深部静脈血栓症と肺塞栓症の総称です。
足の静脈(深部静脈)に血栓が形成される病気を深部静脈血栓症といいます。
その血栓が遊離して心臓を通って、肺の血管(肺動脈)につまる病気を肺塞栓症といいます。
エストロゲン量が多ければVTEリスクは上昇します。
ピルを内服している場合のVTEリスクは、内服していない場合より3~3.5倍増加するといわれています。
ピルを内服していない場合にVTEがおきる確率は1万人あたり1~5人、ピルを内服している場合は1万人あたり3~9人です。
一方、妊婦さんにVTEがおきる確率は1万人あたり5~20人、褥婦さん(産後12週までの婦人)のVTEがおきる確率は1万人あたり40~65人と、ピルを内服している場合よりかなり多いです。
VTEを発症しても、適切な治療を行えばほとんどの場合、問題ないのですが、血栓がまれに重大な肺塞栓症をおこすことがあり、注意が必要です。ピルの内服による死亡率は年間1/100000以下であり、事故などのまれな原因による死亡率と同程度であるといわれています。
肥満(BMIが30以上)・喫煙・高齢はVTEのリスクを増加させます。VTEの発生頻度は年齢とともに増加し、40歳を過ぎてから急激に増加します。どの年齢でも少量でも習慣的に喫煙している場合は、VTEのリスクが上昇します。遺伝的な血栓症の素因や、家族にVTEを発症したことがある場合は、リスクが上昇するといわれています。
●乳癌・子宮頸癌リスク
わずかながら乳癌発症リスクを増加させる可能性がありますが、まだ検討中であり結論は出ていません。
子宮頸癌はピルの長期内服で、発症リスクが増加する可能性があります。
子宮頸癌はヒトパピローマウイルスの持続的な感染で発症する場合が大多数ですが、ピル内服中はすでに感染したヒトパピローマウイルスの排除率が低下することで、ヒトパピローマウイルス持続感染のリスクが高まるためといわれています。

ピルのリスクに気をつける人は

血栓症のリスクを増加させる喫煙・40歳以上・肥満・遺伝的な血栓症の素因がある人、家族にVTEを発症したことがある人、乳癌の治療歴・子宮頸部異形成で定期的に検査中の人、他の疾患がある人は注意が必要です。ここでは代表的な他の疾患について説明します。
●高血圧・片頭痛がある人
高血圧や喫煙が心筋梗塞のリスクを上昇させ、高血圧や片頭痛が脳卒中のリスクを上昇させるといわれています。収縮期血圧が140~159mmHg・拡張期血圧が90~99mmHgや、降圧剤でコントロールできている場合は気をつけながらピルを内服することができます。
●脂質代謝異常がある人
他の高血圧や糖尿病などの疾患がないことを十分検査する必要があります。
●糖尿病がある人
血糖のコントロールが悪くなることがあります。
●子宮筋腫がある人
筋腫が大きくなることを促す場合があるので、定期的にエコーやMRI撮影などの検査をおこなう必要があります。

何歳から何歳まで服用できる?

月経が始まっていれば、何歳からでも服用できます。
骨の成長や密度に影響がでる可能性があるので、骨成長の時期であれば、開始時期をかかりつけの産婦人科で相談しましょう。
習慣的な喫煙や高血圧や糖尿病がなければ、閉経になるまでは内服できますが、50歳以降はVTEのリスクが高まるため内服できません。
40歳以上で月経がある場合は内服できますが、メリットとデメリットを考え、内服を続けるかどうか十分検討する必要があります。

ピルを内服してはいけない人もいるの?

以下の項目が一つでも当てはまる場合は、ピルを内服することはできません。
かかりつけの産婦人科で、他の治療を相談しましょう。
・35歳以上で1日15本以上喫煙している
・50歳以上または閉経している
・頭痛がおきる前にキラキラする光がみえるなどの前兆をともなう片頭痛がある
・乳癌・抗リン脂質抗体症候群・血栓性素因・重篤な肝障害・肺高血圧症や心房細動を合併する心臓弁膜症などがある
・血栓症・肺梗塞・脳梗塞・心筋梗塞などの既往がある
・コントロールのできていない高血圧(常に収縮期血圧が160mmHg以上や拡張期血圧が100mmHg以上)がある
・腎臓や眼の異常(血管病変)を伴う糖尿病がある
・高齢・喫煙・高血圧・糖尿病などの他のリスクを伴う脂質代謝異常がある
・妊娠中・授乳中である 
・産後21日未満である

ピルは女性の生活の質を向上することができる、多くの恩恵を与えてくれる薬です。
気をつけるポイントを十分に理解したうえで内服し、毎日を快適に過ごしましょう。
内服する場合はかかりつけの産婦人科を受診し、定期的な処方・検査をうけるようにしましょう。
受診が難しい場合は、オンライン診療が選択できる医療機関もあります。
妊娠について考える年齢のピルユーザーだけでなく、思春期のピルユーザーも増えています。産婦人科を受診する年齢層も幅広くなっていますので、安心して産婦人科を受診して下さい。

[執筆者]

森久仁子先生
産婦人科専門医、医学博士
大阪医科大学を卒業後、同大学産婦人科学講座に入局。
同大学産婦人科学講座助教、和歌山労災病院をへて、平成25年和歌山市に森女性クリニックを開院。
プライバシーに配慮したクリニックで、産婦人科としての枠組みだけではなく、女性医療の充実を目指すべく診療を行っている。

森女性クリニック
https://www.mori-ladies.com/

関連記事一覧