「いびきがうるさい」と言われたら注意が必要?睡眠時の無呼吸やいびきに潜む恐怖についてお教えします。

「昨日、いびきすごかったよ」
もし、こんな風に注意されても、気恥ずかしさから
「え、そうかな??」
なんていう風に流してしまいがちではありませんか?
ですがいびきには、体の不調が隠されていることも・・・今回は保健師の本田和樹さまにお話を伺いました。

いびきや無呼吸を指摘されたことがある方は要注意!

今回は、睡眠時の無呼吸やいびきと健康についてのお話です。
みなさんはいびきを指摘されたことや、日中の眠気はありませんか?
頻繁に指摘されたり、しっかりと睡眠時間を取っていてもどうしても眠気が残ったりというかたは、一度睡眠時無呼吸の検査を受けてみることをおすすめします。
無呼吸の検査には、自宅でも行うことができる簡易検査や、入院して専門の医療機器を装着する検査などがありますが、いずれも機械を装着するだけなので痛みはありません。
検査や治療には健康保険が利用できるので、耳鼻咽喉科や呼吸器内科、睡眠外来で相談することができます。
コラムを参考に、ご自身のいびきの程度や睡眠不良の原因について振り返るきっかけになれば嬉しいです。

呼吸の役割と体への影響

まずは、呼吸のメカニズムについて説明します。
私たちは、息を吸って肺のなかに空気を取り込んでいます。
そして、肺の中で取り込んだ空気から酸素を体内に取り込み、身体でつくられた二酸化炭素を肺内の空気に渡し、息を吐いて体外に排出しています。
このように呼吸によって、私たちは身体の中の酸素・二酸化炭素の量を調整しています。
睡眠時に無呼吸となり呼吸が止まると、身体の中の酸素の濃度が低下し、二酸化炭素の濃度が上昇します。
これは睡眠の質が低下するだけでなく、体内に酸素を補給するために心拍数を増やし心臓に負担をかけ、動脈硬化・心血管障害・脳血管障害を起こしやすくなってしまいます。
難治性の高血圧などの生活習慣病や、不整脈の原因ともなり決して放置はできません。

無呼吸の種類と睡眠時無呼吸症候群:SAS

では、なぜ寝ているときに呼吸が止まってしまうのでしょうか。
呼吸が止まる原因の違いによって「閉塞性」と「中枢性」の大きく2つに分けられます。
ひとつめは空気を肺へ取り込む通路(気道)が閉鎖してしまう「閉塞性無呼吸」、もうひとつは呼吸を調節している脳の問題で呼吸が止まる「中枢性無呼吸」です。
「閉塞性無呼吸」は、肥満や加齢、ホルモンの異常などでみられ、欧米人に比較するとのどの骨格が狭い日本人では肥満でない方にもみられます。
一方、「中枢性無呼吸」は、心不全・脳疾患や薬の影響でみられることがありますが、発生のメカニズムはまだ完全には解明されていません。
睡眠中に無呼吸を繰り返すことで様々な合併症を起こす病気に「睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)」があります。
診断は携帯型装置による簡易検査や、睡眠ポリグラフ検査(PSG)により睡眠中の呼吸状態の評価を行います。
無呼吸低呼吸指数(AHI)と「いびき、夜間の頻尿、日中の眠気、起床時の頭痛」などの症状の有無により、軽度・中度・重度の診断がされます。

子供にもSASが起こるって本当?

SASは、意外かもしれませんが、大人だけでなく子どもの睡眠障害の原因にもあげられます。
小児では3~6歳の児童に最も多く、肥満よりむしろやせ型の子供に多いのが特徴です。
症状としては、「夜間のいびきや無呼吸」・「睡眠中の陥没呼吸(みぞおち・肋骨・鎖骨上が凹む呼吸)」・「起床時の不機嫌」などがみられます。
この年代は習慣的に昼寝をすることが少なくないので、日中の強い眠気よりも多動・衝動行為・学習障害などがみられることが多いといわれています。
子どものいびきの原因は、扁桃腺・アデノイドの肥大やアレルギー性鼻炎が多いとされており、治療としては、原因となるアデノイド(扁桃が肥大した状態)の切除術や、扁桃摘出術となります。

SASの治療といびきの治療

いびきは、睡眠中に狭くなった気道を空気が通るときに生じる気道壁の振動音です。
かぜや鼻炎による鼻詰まりなどの、一時的ないびきはおおむね心配ないのですが、慢性的ないびきは睡眠不足による日中の眠気や、高血圧などの生活習慣病を引き起こし、悪化の原因となるため早めに診断と治療が必要です。
いびきが軽い場合は、横向きで眠るといびきをかきにくくなりますし、下あごを前方に移動させる口腔内装置(マウスピース)を使用した治療も有効です。
肥満が原因によるいびきの場合には、減量しましょう。
日中の眠気がある場合、一般的な治療としては「経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP:Continuous Positive Airway Pressure)」となります。
寝る時にマスクを装着し、そこから送り込む空気の圧力で狭くなっている気道を広げる療法です。
SASが重度と診断された方や、中度以上で高血圧・心血管障害・糖尿病など合併症のある場合に有効です。
心不全などに関連する中枢性睡眠時無呼吸の治療法は確立されていませんが、陽圧換気療法(吸気・呼気ともに一定の陽圧をかけて肺の膨らみを維持し、酸素化の改善目的で使用する療法)や酸素吸入が有効であるとされています。

うるさいだけじゃない!危険ないびきに注意

隣で寝ている人に、大きないびきをかかれるのは、つらいですよね。
ですが、注意していただきたいいびきもあります。
急性アルコール中毒などで昏睡状態になると、舌やのどの筋肉が麻痺し大きないびきをかくようになります。
「起こしても反応がない」場合や、「いつもと様子が違う」いびきをかくような場合は生命に関わる危険ないびきの可能性が。
ご家族や周囲の方がこのようないびきをしていると感じた場合、直ちに119番で救急車を呼んで下さい。
なかなか自分自身で気付きにくい「睡眠時無呼吸症候群」や「いびき」。
ご家族など周囲から指摘されたり、日中の強い眠気や夜中に何度も目が覚めるなどの自覚症状がある方は、知らず知らずのうちに高血圧や高血糖など生活習慣病を進んでしまっていることも…。
いびきをかいてるなんていう理由で受診をすることに恥ずかしさを感じてしまうかもしれませんが、大きな疾患が隠れていることもあります。
早めにSAS検査ができる耳鼻咽喉科や内科(呼吸器内科)、睡眠外来等で、ご自身の「睡眠時無呼吸症候群」や「いびき」の原因と程度をご確認いただき、治療の必要性について医師とご相談下さい。

執筆者

本田和樹
株式会社エムステージ産業保健事業部 
保健師業務マネージャー

看護師として急性期精神病院で5年間勤務したのち、2020年エムステージ入社。
産業保健師の業務委託事業立ち上げに携わり、現在は複数の企業で保健師として実務をおこなう。
労働と精神衛生についての啓蒙活動、寄稿などもおこなっている。
取得資格:保健師、看護師、養護教諭一種、第一種衛生管理者等

株式会社エムステージ『産業保健トータルサポート』
https://sangyohokensupport.jp/

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