【前編】口を開けると痛い。違和感を感じたら?顎関節症について、いしはた歯科クリニック石幡先生にお伺いしました

口を開けたときに痛みや違和感、何か音がするという方はいませんか?
もしかしたらそれは顎関節症かもしれません。
実は顎関節症は、う蝕(いわゆる虫歯)、歯周病にならぶ第三の歯科疾患といわれています。
特に20~40代の女性に悩む方が多いと報告されている顎関節症について、医療法人社団樹伸会いしはた歯科クリニック 院長の石幡一樹先生にお話を伺いました。

そのあごのトラブル、顎関節症かも?


顎関節症は多因子性疾患といわれています。
多因子疾患とは、多数の遺伝子が作用して、生活習慣や遺伝などの要因が合わさって起こる病気のことです。
因子には解剖学的要因・生理学的要因・外傷要因・咬合要因・精神的要因・行動要因と6つの要因があります。

1)解剖学的要因:骨や筋肉、神経などの組織の異常が原因となるものを解剖学的要因
2)生物学的要因:筋力がないなどの要因
3)外傷要因:怪我などの要因
4)咬合要因:不正咬合などの要因
5)精神的要因:ストレスなどの要因
6)行動要因:生活習慣などの要因

この中で早期に改善が出来るのは行動要因だけとなります。
行動要因に関して調査したところ下記の通りでした。

1.片がみ癖 64.8%
2.不良姿勢 59.8%
3.多忙な仕事 57.7%
4.TCHTooth Contacting Habit (歯列接触癖:上下の歯を接触させる癖のこと) 50.4%
(出典:「新編 顎関節症 改訂版(永末書店)」日本顎関節学会(編)2018)

上記より顎関節症の主な行動要因としては「片がみ癖」「寝るときの姿勢」「無意識の食いしばり」「頬杖」「楽器の演奏時などの無理な姿勢」「日常生活で負担のかかる姿勢や動作」「ストレス(精神的や肉体的)」などの原因があり、複数の原因が重なったときに、顎関節症が発症します。

歯科医院ではどのような治療をおこなうの?標準治療について

顎関節症の治療方法は、歯科医院によって異なる場合があります。
またケースによっては、複数の治療方法を合わせておこなうこともあります。
顎関節症の具体的な治療方法を紹介します。

1)運動療法(ストレッチ)
顎関節症は顎の使い方の癖や噛み方の偏りによって引き起こされます。
運動療法では、正しい口の使い方を指導するとともに、ストレッチによって顎関節症の原因となっている箇所の運動機能を改善していきます。
生活習慣が原因であることの多い顎関節症では、対症療法を繰り返しても、顎関節症は再発してしまいます。
つまり、いかに根本的に治療をしていくかが重要なのです。
当院では、患者さんの生活習慣や筋肉の使い方を診察しながら、運動療法によって顎関節症を原因から治療することを心がけています。
具体的な運動療法には以下のようになっています。
・筋肉や靭帯などの柔軟性や伸張性を改善するストレッチ
・顎関節の動きを良くして開口量を増加させる下顎可動化訓練
・疲れやすい筋肉を鍛えて耐久性を向上させる筋力増強訓練など

2)理学療法
理学療法とは、電気を流したり、マッサージをしたりして、顎周辺の筋肉の緊張を改善する方法です。筋肉をほぐして血流を改善し、痛みを軽減します。
費用はクリニックにより自費負担で10,000円程度することもあるでしょう。
理学療法は、物理療法と運動療法の2種類に分けられます。
・手指による筋肉のマッサージ
・ホットパックなどによる温罨法
・低周波治療による筋肉への電気刺激
・鎮痛を目的としたレーザー照射など

3)薬物療法
薬物療法とは、顎関節や咀嚼筋の痛みに対して、消炎鎮痛薬を使用する方法です。
筋肉の緊張が強い場合にも、薬を使用することがあります。
症状に応じて、薬の種類や服用方法を調整します。
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)を使用することが多いですが、顎関節症が適応症として認められているのは、現時点ではインドメタシンとアンフェナクナトリウムのみです。
費用は薬の処方代になりますので1,000円以下になります。
注意点としては、
・副作用として、消化器障害が起こることがある
・服用中の薬がある場合は、事前に医師に伝える必要がある
この2つが挙げられます。
また薬物療法は、顎関節症の症状軽減を目的とする対症療法です。
根本的な治療には、運動療法や生活改善をあわせて実施する必要があります。

4)スプリント療法
スプリント療法とは、マウスピースを使用した方法です。
費用は3割負担の方で3,000円~5,000円です。
その後の調整は1,000円弱になります。
上顎または下顎の全歯列を覆うもので、ブラキシズム(睡眠時の歯ぎしりやくいしばり)による咀嚼筋の緊張の緩和や、顎関節部への負荷の軽減を目的としています。
しかし、最新の知見では、計画性なくマウスピースをはめて様子を見る治療は否定されています。
適切な効果を得るためには、顎関節症専門の歯科医師による管理の下で治療をおこないましょう。
顎関節症に関しては保険治療の範囲内では出来ることに制限があり、また説明に時間もかかるため自費治療でおこなっているクリニックも多いです。
費用に関して不明点がある場合は受診する歯科医院に質問をしてみてください。

鎮痛剤の使用などのいわゆる対症療法は、痛みや違和感の緩和などには有効ですが、これだけでの完治は難しく、繰り返してしまう患者さんが多いため、根本からの治療が望ましいと考えております。

また、最新の知見では顎関節症の治療目的にマウスピースをはめて様子を見ることは無意味・もしくは悪化の可能性があるためしてはいけないとなっております(出典:顎関節症初期治療診療ガイドライン 2023 改訂版:一般社団法人日本顎関節学会 診療ガイドライン委員会編)。
ただし最新の知見のため、これを知らない歯科医がいる可能性もあります。

顎関節症をきちんと治療するためには、食べ物の噛み方に由来した顎関節の位置のずれを矯正するための原因療法として、顎関節症になってしまった要因となる例えば噛み方の癖やTCH(歯列接触癖)などの癖を患者さんに知って自覚していただくことが重要であると考えます。
そして顎への悪影響を知っていただき、再発しないように下顎の正しい使い方をレクチャーし、下顎の運動障害を改善していく機能的運動療法(ストレッチ療法)を実施することが重要です。

【後編】に続きます。

執筆者

石幡一樹先生
いしはた歯科クリニック院長

[経歴]
歯科医師・博士(歯学)
2006年 昭和大学歯学部 卒業
2011年 東京医科歯科大学部分床義歯補綴学分野大学院 博士課程修了
2012年 埼玉県久喜市にていしはた歯科クリニックを開院
2020年 医療法人社団樹伸会を設立
2022年 久喜総合歯科を開院

医療法人社団樹伸会 理事長
日本補綴歯科学会 専門医
日本顎咬合学会 認定医
日本歯周病学会
ITI Member

昭和大学歯学部を卒業後、東京医科歯科大学大学院部分床義歯補綴学分野にて博士課程を修了。
2012年に埼玉県久喜市にて開業、2020年に医療法人化し、2023年現在は本院と分院の2クリニックを運営する。
縁ある人を幸せにする歯医者を信念とし、「患者が生涯しっかり噛める治療」を理念に診療をおこなう。
指導医である父、石幡伸雄より顎関節症の治療法を教わり、短期間で顎の痛みだけでなく、関節雑音も治せる治療法を全国に普及し歯科界に貢献するため、多数の講演活動をおこなっている。

いしはた歯科クリニック 
https://ishihata-dental.com/

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