体だけでなく心にも・・切っても切り離せない「冷え」とPMSについて幾嶋先生に教えていただきました!

女性の悩みに多いPMS・・・体のつらさもありますが、心が不安定になることに悩まれる方も多いのではないでしょうか。
今回は、冷えとPMSについて、医療法人幾嶋医院の院長である幾嶋泰郎先生にお話を伺いました。

PMSに悩む方・・・PMDDを知っていますか?

月経前症候群(PMS)の徴候を示す女性のうち、およそ5~8%の方は、月経前不快気分障害(PMDD)の可能性があるとされています。
症状の出現時期は、PMSと同じく、排卵から月経開始数日前にかけて現れ、月経開始後2~3日のうちに消失しますが、症状レベルは極めて深刻という方もいます。
月経前、あるいは月経中のイライラや憂鬱感といった気分の変化は多くの女性にみられます。
時には、それらが原因で、身近な人との間にトラブルが生じることがあるかも知れません。
とはいえ、大半の女性は治療を必要とするまでもなく、問題が大きくなることもないでしょう。
しかしながら、ごく一部の女性に限り、日常生活さえもままならないほど著しい精神症状のある方がみられます。
これらは突発的であり、その行動がみられる間、本人は自分で自分をコントロールするのが難しい状態であると考えられます。
こうした症状は常にみられるわけではありません。
月経開始から数日後には消失し、少なくとも排卵期までは、理性的で平穏、活発な行動がみられます。
だからこそ、本人と周囲の方達の苦しみ、悩みは大きなものになるでしょう。

ひとりで抱え込まないで。PMDDケアに重要なこととは?

PMDDは、本人のセルフケアは勿論ですが、周囲のサポートと正しい認識が重要になります。
PMDDと診断された女性の全てに激しい行動がみられるわけではありません。
しかしながら、ある時期のみ、突然、内側で何かが爆発するような感じがあり、「もしかしたら、いつか人を傷つけてしまうかも知れない」と不安を抱えていたり、暴力行為の後に「またやってしまった」と落ち込んでしまったり、自分の感情をコントロールできないことに悩んでいます。
突然の苛立ちが更には暴力へと進行した時、その矛先は、夫や子どもまたは親など最も身近な人へと向けられることになります。
傷つけられた相手、また傷つけてしまった本人も、心に深い傷を負うことになります。
その後の家族関係・人間関係にも、大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
予期せぬ爆発は、決して回避できないものではありません。
本人が症状の現れる時期を、しっかりと把握し、周囲の方にも、きちんと伝えておかなければなりません。
また、ご本人は、普段から不満やストレスを内に溜めないよう、適当に発散するよう心がけましょう。
ご家族や周囲の人々との間に何か不満を抱えている場合は、症状の現れない穏やかな時期に、そのことについて相談してみてはいかがでしょうか?
もし、周囲の人に相談できないのであれば、第三者に話を聞いてもらうだけでも随分違ってくると思います。
その際は、信頼できる相手を選ぶことが大切です。
また、同じ悩みを抱える方達と交流を持つことも、大きな支えになると思います。
更に、症状の現れる月経前の時期は、血糖値を一定に保つよう心がけるとよいでしょう。
それでも、改善が難しいようであれば、決して独りでは悩まず、産婦人科、精神科、保健所などで相談しましょう。

日本でも増えつつあるPMDD…セルフケアでは、冷えを改善することが大切

月経前不快気分障害(PMDD)のチェックテスト(アメリカ精神医学会「PMDDの定義」DMS-Ⅳより改変)があり、欧米ではPMSやPMDDの研究が進んでいます。
欧米では専門的な治療体制が整いつつありますが、日本国内でPMSという言葉が知られるようになったのはここ数年のことであり、PMDDの社会的認知度はまだ低いといえます。
しかし、PMDDは日本でも近年増加傾向にあるといわれています。
本人は症状を自覚していながらも、それがPMDDのせいだと気づかず、周囲の方もそのような女性を前にし、戸惑うこともあるでしょう。
特に月経のない男性にしてみればPMDDを理解することは難しいかも知れませんが、薬物治療と並行して少しでもPMDDの理解を深めていただくことも大切だと思います。
身体症状とともに精神的な症状が出現するような病気はそれぞれ別個に治療するより、両方同時に治療することが大事です。
西洋医学的には抗うつ薬を処方されることが多いようですが、いまだ標準的な治療法はありません。
漢方薬には『心身一如』という考えがあり、精神や感情は五臓によって支配されていると考えるので、身体症状と精神症状を同時に治療していきます。
PMDDの人は強度の冷え症であることがあり、この冷え症がPMDDの症状を引き起こしている原因ではないかと私は考えています。
なぜなら、身体を温めれば症状が改善することが多くあるからです。
冷えの改善には、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、人参湯(にんじんとう)、真武湯(しんぶとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)などが使われます。
症状が発現する月経前だけ服用するのではなくて、体質を改善するつもりで、ずっと服用していただく方が効果的です。

体を冷やさないために大切なこと

冷え症は万病のもとといわれますが、どんな病気と関係があるかは、全てが分かっているわけではありません。
通常の西洋医学の薬で治らなかったり、標準的な漢方薬でも治らなかったりした症状は、根底に冷え症があると考えると解決することがあります。
今年は暖冬のようですが、暖房を入れるタイミングが却って分かりづらいのではないでしょうか?
女性は特に「汗をかくとお化粧が流れるし、臭いも気になる」「1滴でも汗をかきたくない」と思って、必要以上に体を冷やしていることがあるようです。
暖房を入れるタイミングは半袖でいられるかどうかを基準にしてください。
入浴はシャワーだけにせず、きちんと湯船につかりましょう。
お湯の温度は40℃以下にし、半身浴がおすすめです。
じわっと汗をかく程度で深部体温が温まります。大量に汗をかくと体力が消耗します。
15~30分が目安です。

これからますます寒さが厳しくなります。
体を冷やさないようにして、冬を過ごしましょう。

執筆者

幾嶋泰郎先生
医療法人いくしま医院理事長

[経歴]
1955年生まれ。
1980年に川崎医科大学を卒業し、母校の外科で2年間の研修。
その後福岡大学産婦人科で研修し、第一生命保険会社で診査医をしながら久留米大学産婦人科で学位を取得。
1999年、父の診療所を継承し福岡県柳川市で無床診療所医療法人いくしま医院を開業し、現在は理事長を務める。
デイサービス、グループホーム、小規模多機能施設、住宅型有料老人ホームをスタッフに支えられながら運営している。
開業後に漢方に目覚め、柳川漢方研究会(現在、漢方やながわ宿)を立ち上げ、初心者の育成と自身の研鑚に努めているかたわら、新見正則先生が主催するYouTube「漢方jp」に出演し講演や対談を通して、新しい漢方の在り方を模索している。
2022年4月よりオンライン診療を開始。自ら球脊髄性筋萎縮という難病(10万人に1人)を背負い、車椅子で診療を続けている。

[所属学会など]
日本東洋医学会 日本産婦人科学会 日本老年医学会 福岡医師漢方研究会

いくしま医院ホームページ
https://www.ikushima.or.jp/

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