え?いつのまに!?「冷え」を感じていないのに起こり得る「かくれ冷え症」について幾嶋先生に教えていただきました!
冷えを感じることはなくても、冷え症になっていることもある?!
今回は、男女問わず起こりうる「かくれ冷え症」について、医療法人幾嶋医院の院長である幾嶋泰郎先生にお話を伺いました。
え、本人も気付いていない?!かくれ冷え症とは?
冷え症はただ冷えて寒いという人だけでなく、冷えをあまり感じていないにもかかわらず、内臓や精神にまで冷えによるダメージを受けている方が、男女を問わずおられます。
そして、自分のことを冷え症だと思っていないのが、かくれ冷え症の特徴です。
冷え症は深部体温の低下することから始まります。
深部の体温というのは脳や内臓の体温のことです。
人間の生命活動は内臓によって行われますが、この部分は36.5~37.2℃という狭い範囲に維持されています。
脳や内臓の温度が下がると、その臓器は一時的に、機能不全に陥り、深部体温が正常になるまで続きます。
深部体温が下がるとそれを補うために、表面の温度を犠牲にしてその部分の血液を深部に集めるような仕組みがあります。
それで犠牲になったある表面の部分の温度が下がり、その部分の冷えを感じるということです。
しかしこの仕組みが有効に働かずに、表面の温度はあまり下がらず、内臓の温度ばかりが下がっていると、冷えを自覚しないで、内臓の機能障害が目立つような症状が出現します。
このような症状は多系統にわたって出現することもあり、受診をしてもなかなか原因が分からず、原因不明として病院を転々とすることもあるようです。
当然、冬は寒冷環境にさらされる機会が多いわけですが、日中と朝夕の寒暖差が大きいと暖房を入れるタイミングが合わずに、身体を冷やしてしまうこともあります。
続いて、冷えを感じない冷え症、「かくれ冷え症」について、どんな症状があるか紹介します。
こんな症状があったら、あなたもかくれ冷え症かも?
1)抜け毛・脱毛
男性の脱毛症はAGAといわれ、男性ホルモンが関係しているといわれますが、頭皮の血流不足が原因のこともあります。
これは男性だけでなく女性にも起こります。
特に頭頂部は首から入って来た血管からすると、頭頂部は最も遠くにあるので、血流が届きにくい場所となり、深部体温が下がっていると、頭皮の部分の血流を犠牲にして深部体温を保とうという働きが起こります。
そのため、頭頂部の血流不足になって抜け毛が増えてしまうようです。
洗髪後はヘアドライヤーでしっかりと髪を乾かし、温風で頭皮も温めてみましょう。
漢方薬では、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、四物湯(しもつとう)、八味地黄丸(はちみじおうがん)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などが使われます。
2)保湿してもなかなか落ち着かない肌のかゆみ
赤みやぶつぶつのあまりない、乾燥したような皮膚のカサカサ感の強いかゆみは、これまで冬特有の乾燥によるかゆみと説明されてきました。
通常の皮膚科では、保湿剤で入念に皮膚の手入れをするように指導されてきたと思いますが、保湿剤だけでは改善しないこともありますよね。
このようなとき、かゆみの原因は乾燥だけではありません。
冷えによる血行不良などの影響でかゆみが出ていることも考えられます。
保湿や体の温め以外には、漢方を使ったケアもおすすめです。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯、桂麻各半湯(けいまかくはんとう)、当帰飲子(とうきいんし)黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)、桂枝加黄蓍湯(けいしかおうぎとう)などを使います。
腰回りの乾燥肌には苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)を使います。
3)朝、スッキリと目覚められない
1日のうちで最も気温が下がるのは、日没から日出までで、特に日の出前は冷えています。
起床時に10分以上かかる人は、寝ている間に深部体温が下がっている可能性があります。
深部体温の中でも特に心臓付近が冷えていると、朝起きようとした時に、めまいや吐き気や頭痛がして起きられなかったりします。
身体が冷えていると、臓器内でのエネルギーの産生も低下していますので、心臓を動かす力が低下しています。
頭は心臓より上にあるので、脳に血液を送るためには血圧を汲み上げる必要がありますが、血圧を上げるだけのエネルギーがありません。
日中の気温が上がる10:00~12:00頃になってやっと体が温まり、頭を上げられるようになります。
朝にスッキリ起きられない方は、起床時の深部体温が下がっていると考えられるので、寝ている間の寝室の温度が25℃以上を下回らないようにしてみましょう。
また、目が覚めた時、両手でグーパー・グーパーを繰り返すこともおすすめです。
自律神経が次第に整ってきて速く起きられるようになります。
漢方薬では当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、真武湯(しんぶとう)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)などを使います。
執筆者
幾嶋泰郎先生
医療法人いくしま医院理事長
[経歴]
1955年生まれ。
1980年に川崎医科大学を卒業し、母校の外科で2年間の研修。
その後福岡大学産婦人科で研修し、第一生命保険会社で診査医をしながら久留米大学産婦人科で学位を取得。
1999年、父の診療所を継承し福岡県柳川市で無床診療所医療法人いくしま医院を開業し、現在は理事長を務める。
デイサービス、グループホーム、小規模多機能施設、住宅型有料老人ホームをスタッフに支えられながら運営している。
開業後に漢方に目覚め、柳川漢方研究会(現在、漢方やながわ宿)を立ち上げ、初心者の育成と自身の研鑚に努めているかたわら、新見正則先生が主催するYouTube「漢方jp」に出演し講演や対談を通して、新しい漢方の在り方を模索している。
2022年4月よりオンライン診療を開始。自ら球脊髄性筋萎縮という難病(10万人に1人)を背負い、車椅子で診療を続けている。
[所属学会など]
日本東洋医学会 日本産婦人科学会 日本老年医学会 福岡医師漢方研究会
いくしま医院ホームページ
https://www.ikushima.or.jp/