看護学とサーカディアンリズム、美容への影響

看護におけるサーカディアンリズムの大切さ

171024_KangoBiyo03ヒトの体内における生理機能は、運動・睡眠・食事といったすべての生活の基盤であり、ヒトの生命力に直結します。そのため、サーカディアンリズムを適切に調整することは、その人の生命力を引き出すことにつながります。

それは、疾病の予防や回復、ひいては健康そのものに貢献できる可能性があり、患者の命と健康を守る看護の世界でも、サーカディアンリズムは重要な概念です。

またサーカディアンリズムを調整する同調因子は、光、食事や運動、社会的接触といった私たちの日常生活になくてはならないものであり、患者の生活を支えるという看護の役割から見ても、サーカディアンリズムへのケアは看護師にとって重要な使命であると言えます。

サーカディアンリズムに働きかけるケアとしては、まず睡眠に対するケアが挙げられます。睡眠に対するケアはこれまでに何回も書いてきましたが、光などの生活環境(同調因子)を整えて、サーカディアンリズムを調整することは、眠れない患者さんへの立派なケアとなります。

しかし、サーカディアンリズムは、睡眠ケア以外にも活用することができます。

例えば、薬の世界では、サーカディアンリズムに合わせて、薬の効果が最大になる時刻に投薬をする“時間治療”という方法が知られています。実は、看護のケアも効果が最大になる時刻があるのではないかということが言われています。したがって、お風呂やリハビリにも、サーカディアンリズムに合った最適な時刻があるのではないかということです。これらについては、まだ明らかになっていませんが、今、研究が進められています。

また、サーカディアンリズムは看護師の本人の健康とも深く関係しています。“夜型と生理”のところでも書きましたが、看護師という職業には夜勤があります。そのため、夜勤によるサーカディアンリズムの乱れに対して、何も対策をしなければ、もちろん睡眠障害や体の不調を感じますし、それが長期にわたれば乳がんなどの原因となります(Knutsson, 2003)。

したがって、サーカディアンリズムは、看護師自身が自らの健康を考えるうえでも、大変重要な概念と知識です。

このように、生体リズムはヒトの健康に密接に関連していますが、残念なことに看護学分野でその概念は、実践にも教育にも十分に反映できているとは言えないのが現状です。

入院してなかなか眠れなかった経験がある人はご存知かもしれませんが、入院患者さんの睡眠に対するケアも、まずは睡眠薬が処方されるというのが一般的になっています。また看護師の仕事も、点滴や患者さんの身の回りのお世話、リハビリといった業務に時間をとられ、24時間の生活を通したサーカディアンリズムに対するケアには十分に時間を割くことができていません。

この背景には、サーカディアンリズムの重要性が、まだ社会的にも十分に認知されておらず、看護教育にも反映されていないからかもしれません。

しかし、患者へのケアのみならず、自身の健康にも深く関連しているサーカディアンリズムを、看護師がよくわかっていないというのは、問題です。サーカディアンリズムの知識を看護師に普及させることは、私たちの今後の課題でもあります。

 

美容への影響

171024_KangoBiyo02私たちの生理機能が美容とも強く関係していることは言うまでもありませんが、生理機能の背景にあるサーカディアンリズムもまた美容に大きく影響を与えると考えられています。

美容と関連のある体の機能として、成長ホルモンの分泌があります。

成長ホルモンは、肌の新陳代謝を高める作用がありますが、加齢とともに分泌が減少することが明らかになっており、アンチエイジングの視点からも注目されているホルモンです。実は、この成長ホルモンの分泌にもサーカディアンリズムが存在し、そのピークは夜にあります(Sassin, Frantz, Weitzman, & Kapen, 1972)。成長ホルモンの分泌は、深い睡眠(徐派睡眠)の間に分泌が増えるため、俗に言う肌のゴールデンタイム(22時~2時)に睡眠をとることが、美容にとって重要であるとされています。

しかし、近年ではその時間帯そのものよりも、睡眠の質が重要であることがわかってきました。そのため、美容のためには、無理をして22時に寝るよりも、いかにして深い睡眠をとるかを考えることの方が重要です。

そこで注目するのが、サーカディアンリズムの調整です。体内でのサーカディアンリズムの不調和は、寝つきを悪くするだけではなく、睡眠そのものの質も低下させ、深い睡眠がとれなくなる原因となります。したがって、朝や昼に光を浴びたり、日中に精力的に活動したりすることは、睡眠の質を高め成長ホルモンの分泌を増やすことによって、肌の新陳代謝を高める効果があります。

このように、サーカディアンリズムの調整は、単に睡眠覚醒のリズムを整えるだけにとどまらず、美容という観点からも健康的な側面を持っています。サーカディアンリズムを整えて、理想の睡眠と肌を手に入れましょう。
(長島 俊輔)

長島先生
長島 俊輔(ながしま しゅんすけ)京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻
看護科学コース 基礎看護学講座 生活環境看護学分野 博士後期課程
日本学術振興会 特別研究員
京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻。生体リズムに関する研究をおこない、さまざまな大学や学会で講演や研究発表をおこなっている。

経歴

平成22年 京都大学 医学部 保健学科 卒業
平成22年 看護師免許、保健師免許 資格取得
平成22年 京都大学医学部附属病院 看護部 就職
平成25年 京都大学医学部附属病院 看護部 退職
平成25年 京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 修士課程 入学
平成25年 京都光華女子大学 健康科学部 看護学科 非常勤講師
平成27年 京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 修士課程 修了
平成27年 京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 博士課程 入学(現在に至る)
平成27年 日本学術振興会 特別研究員 採用(現在に至る)

受賞歴

平成22年度 京都大学総長賞 受賞
平成27年度 日本看護技術学会 第13回学術集会大会賞 受賞

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