そうだったの!実は病気じゃない?!五月病を3つのキーワードとエビデンスで整形外科医の歌島先生が紐解きます!

楽しかったゴールデンウィークが終わると、なんだか気分が憂鬱に…これって五月病?と思われる方は多いと思います。
今回は、整形外科医の歌島大輔先生に、五月病について解説していただきました。

実は病気じゃない?!五月病の真実

昔から、環境が変わった新入学生や新入社員が、その環境についていけずに心身の不調を来すことで知られていた「五月病」。
実はこれ、正式な医学用語や病名ではありません。
それゆえ、さまざまな専門家と呼ばれる人たちが自由に「自分が良いと思う治療法」というものを発信し、多くの方が混乱する事態になっています。
そこで今回はできる限り医学的根拠も集めながら、フワッとしてない解説を、かつ、わかりやすくお伝えするという「五月病解説」をしてみたいと思います。

五月病とはそもそもどういうもの?

五月病というのは、繰り返しになりますが、環境の変化によるストレスが引き起こす心身の不調のひとつと考えられています。
日本においては、年度初めの4月に環境が変わる人が圧倒的に多いですよね。
そして、その4月の環境変化によるストレスに適応できず、蓄積した頃として5月に症状が出やすいことで五月病という病名がついています。
具体的な症状としては、
・身体のだるさ
・疲れやすさ
・意欲がわかない
・物事を悲観的に考えてしまう
・よく眠れない
・食欲がない

などの心身の症状が出ることがあるといわれています。(※1)

五月病は病名ではないと冒頭でお話ししました。さらにいうと、そもそも欧米には五月病に相当する言葉はありません。
そういう概念すらないんですね。
ですから、世界中探しても、五月病に関連する医学論文というのはかなり少なくて、結果として、研究が進んでいない分野になります。
しかし、この五月病のメカニズムや症状を考えると、キーとなる言葉と病名が浮かび上がってきます。
それは「ストレス」と「うつ病」です。

この2つのキーワードを中心に「五月病」を紐解いていきましょう。

五月病になりやすい人はいる?

五月病になりやすい人ということでいうと、当然ですが「ストレス」が強まっている人になります。
心理学者のアルフレッド・アドラーは、「人間は社会的存在であり、人間関係において問題を抱えることが多い」といっていますが、環境が変われば、すなわち人間関係が変わることになります。
もちろん、人間関係以外の要因も含めて、環境変化は「ストレス増大」に繋がります。
ですから、まず「環境が大きく変わった人が『五月病』になりやすい」というシンプルな関係は間違いなさそうです。

もうひとつのキーワード「うつ病」ですが、まず先にお伝えしておくと、「五月病=うつ病」ではありません。

ただ、イメージとしては五月病も重症化してしまうと「うつ病」になり得ると考えて良いと思います。
そういう意味で「うつ病」の危険因子といわれている要素を厚生労働省の「うつ病を知る」から引用してみます。(※2)

危険因子として挙げられているのが、まず女性であることです。
なんと女性は男性の2倍程度、うつ病になりやすいことが知られています。
これは、思春期における女性ホルモンの増加、妊娠・出産など女性に特有のイベントや男女の社会的役割の格差などが理由として考えられています。
また、うつ病は若い人と中高年の2つの年齢層に多いことが知られています。
その他、幼少期の辛い体験や、直近で離婚、死別、その他の喪失体験というようなストレスとなった出来事も危険因子とされています。

五月病にならないためにできること

考え方として一般的に推奨されていることをお伝えしますと、
○ストレスが増えていることに早めに気付く
○ストレスをなくそうとせずに適度に上手に付き合うことを意識する
○十分に休む

ということになります。

でも、「そんなことはわかっているよ」という感じですよね。

そこで「ストレス」と「うつ病」というキーワードに戻ります。
この2つのキーワードを繋げる第3のキーワードが「セロトニン」です。
セロトニンは脳内の神経伝達物質のひとつで、精神(メンタル)を安定させる働きがあります。
この脳内のセロトニンを増やすことが「ストレス」対処に重要であることは以前から知られており、さらに「うつ病」の治療のメインターゲットのひとつがセロトニンになっています。
そう考えると、日頃からセロトニンを増やすような生活習慣を取り入れると五月病予防や対処になり得るのではないかという仮説が成り立ちます。

そこでこちらの2007年の論文が参考になります。(※3)
こちらの論文では薬物治療以外の方法として、
●瞑想
●明るい光を浴びる
●運動
●食事

が紹介されています。

この中で誰もが気軽に取り入れられる方法として、ウォーキングやジョギングなどをおすすめしたいと思います。
それも屋外でちゃんと歩く、走ることが大事になってくるのもおわかりですよね。
「運動」だけでなく、「明るい光を浴びる」という方法も取り入れることを考えると、屋内のフィットネスジムのランニングマシーンで走るのではちょっと光の量が足りないんです。

その他の方法でいうと、瞑想はちょっと人によっては取り入れにくいかもしれませんね。
ただ、シンプルにリラックスした姿勢で眼を閉じて脳に入ってくる視覚情報を減らし、意識は呼吸に集中する。
これだけでも十分に瞑想になりますので、実は気軽に取り入れられる方法です。

最後の食事はちょっと現段階ではおすすめできません。
というのも、こちらの論文(※4)では糖質摂取がセロトニンレベルを上昇させることが示されているのですが、これはむしろ糖質依存からの肥満要因のひとつで、望ましい対処法ではないと考えられています。

五月病かも、と思ったらどうすればいい?

ここまで解説してきたとおり、五月病という正式な病名はないにしても、重症化すると「うつ病」になってしまう可能性もありますし、強いストレスに関連した心身の不調は一般的には「適応障害」という病名があります。
五月病かもしれないと思った時に、軽めの症状の場合は上記の対策(ストレスへの適切な対処、運動や光を浴びる、瞑想するなど)を試しつつ、改善しない場合や症状が強い場合は躊躇せずに心療内科や精神科などを受診することをおすすめします。

参考資料
(※1)大阪府医師会 げんき情報 五月病
https://www.osaka.med.or.jp/citizen/tv85.html
(※2)厚生労働省「うつ病を知る」
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/s0126-5b2.html
(※3) Young S. N. 2007. How to increase serotonin in the human brain without drugs. Journal of psychiatry & neuroscience :
(※4)R J Wurtman et al. Obes Res. 1995
Brain serotonin, carbohydrate-craving, obesity and depression

[執筆者]

歌島大輔先生
整形外科医
フリーランス整形外科医として、常に磨き上げ続けている肩関節鏡手術スキルを駆使し、五十肩・腱板断裂などを対象に治療をおこなっている。
また、情報発信ドクターとしての顔も持ち、「正しい医学情報をわかりやすく」をモットーに、情報発信・オンライン教育事業を積極的に展開している。

すごいエビデンス治療 | 整形外科医 歌島大輔
https://www.youtube.com/@d.utashima

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