臭いモノには「良い匂い」?!ニオイに関するあれこれ~ビューティ今昔物語③~

年に1回しか髪を洗わない?!昔の習慣に必要不可欠だった「ニオイ」について教えます!

皆さんの好きな匂いはなんですか?
強く香る香水を好む欧米と違い、日本人はほのかに香る石けんやシャンプーといった、清潔感のある優しい匂いが好きなようです。
私たち日本人は、どのように“臭い”や“匂い”と付き合ってきたのでしょうか?

髪を洗うのが…年に1度?!そんな中で発達した「香」の文化

平安時代と聞くと、十二単をまとい、大垂髪(おすべらかし)と呼ばれる美しい黒髪を長く後ろに垂らした姫を思い浮かべる方も多いかもしれません。
この時代は姫のような貴族であっても洗髪は年に1度だったといわれています。
あとは“ゆする”と呼ばれるお米のとぎ汁や丁子油・椿油といった油を髪につけるだけ…!
長い髪を持つ当時の女性たちは、シャンプーもない時代にどのように臭いのケアをしていたのでしょうか。
目には目を、歯には歯を、臭いには匂いを…という意味なのでしょうか、当時の貴族たちは「香」を使っていました。
着物や髪に焚きしめたり、香枕(枕の中で香を焚くもの)を使って寝ている間にも髪に匂いを移したり…。
仏教伝来とともに大陸より日本に伝わった香の文化はどんどん発展し、四季の風情や個人の好みの香りを調合し、その技能を競ったり、薫物合わせを楽しんだり、貴族の文化として発展していきました。
源氏物語をはじめとした当時の物語の中にも、文にあえて名前は書かずに移り香で差出人を知らせたり、去った後に残り香で存在をアピールしたりする場面が描かれています。
実は、15世紀ごろにフランスで香水が発達したのも、当時の人々が年に数えるほどしか入浴しなかったため(入浴すると病気になりやすいと信じられていた)、その体臭を隠すためだったといわれています。
さらに、きらびやかなドレスも月に1度洗濯すればよい方だったそうで、カビが生えていることも珍しくなく、相当な臭いがしたため、やはり香水を振りかけるのが必須だったそうです。
風雅な香や、エレガントな香水が、そもそも体臭をごまかすためのものだったかもしれないなんて、あまりにもイメージとかけ離れていてびっくりですよね。

日本人は無香が好き?日本人の清潔感とは??

香が生まれ、香りを身にまとってきた日本人ですが、戦国時代から江戸時代にかけ、庶民にも入浴や行水が一般化してきたころから、あまり強い匂いを好まない傾向が出てきたようです。
体を清潔に保つようになったことと、日本人に腋臭を持つ人が少ない(黒人:100%、白人:80%、日本人:10%程度といわれている)ため、強い匂いで体臭をマスキングする必要がなかったためだと思われます。
戦国時代に日本を訪れた宣教師のルイス・フロイスも「日本人は強すぎる匂いに堪えられないし、またそれを喜ばない」と記述しています。
また、禅寺には「葷酒山門に入るを許さず(ニンニクやネギなど臭いの強い野菜やお酒は、修行の妨げになるため寺の中に持ち込んではならない)」との教えがあり、仏教が社会の慣習に与えた影響もあるといえます。
お寺や神社の境内を掃き清め、参拝の際には禊をし、手水を使って、口をすすぎ、臭いをきれいに落として心身ともに清めるというのが日本人の生活の一部になっていたのです。
幕末に日本を訪れたシュリーマン(著作に清国と日本の旅行記がある)も「日本人が世界で一番清潔な国民であることは異論がない」と述べています。
日本は水が豊富で水質がよかったことも、日本人の清潔さに関係しているでしょう。
そのような経緯から、日本人は強い匂いを人前で発することはあまり良しとはせず、自分の臭いや汚れを落とした上でほのかな匂いを漂わせる程度の方が慎ましいとして好むようになったと考えられます。
江戸時代には、体臭を隠すためのマスキングとしての匂いではなく、伽羅の油(鬢付け油のことで今でいうヘアオイル)の匂いを楽しんだり、匂い袋や香り袋というサシェのようなものを袂に忍ばせたりして、おしゃれや粋を表すアイテムとして香りが楽しまれていました。
現代でも、ほのかな香りは好きだけど、強い匂いを嫌う方は多いのではないでしょうか?
公害をもじって、芳香剤や香水を過剰に使用することによって、人に不快感をもたらす「香害」なんて言葉が生み出されてしまうくらいです。
シャンプーやコンディショナー、コスメティック、柔軟剤、フレグランス…。
普段、私たちが身にまとっている「匂い」はたくさんあります。
一つ一つはとても良い匂いですが、使う量が多くなったり、他の香りと混ざったりするとまわりの方に不快な思いをさせることになってしまうかもしれません。
臭いというのは、湿度が高く、空気中に水蒸気の分子が多いときには、より強く感じやすくなるそうです。
比較的日本人が臭いに敏感だといわれるのは、湿度の高い日本の気候風土にも関係があるといわれています。
また、犬の鼻がいつも湿っているように、鼻にある嗅覚組織も、ある程度湿度が高い方が臭いを感じ取りやすくなります。
つまり、湿度の高い日本の夏は、自分から発する臭いのケアはもちろんですが、まとう香りにも十分注意する必要があるのです。

神仏に対する儀式のため、防虫や殺菌のため、体臭をマスキングするため、自分をアピールするため…匂いや香りの持つ役割は、時代の流れとともにどんどん変化していき、現代でも私たちの生活から切り離すことはできません。
最近は、華やかで持続性の高い香りの柔軟剤や、香りの強いヘアケア製品の流行もあり、ほのかな香りを愛でてきた私たち日本人にも少し変化が表れているのかもしれません。
古来より私たちの生活に密着してきた様々な匂い。
これからも上手に付き合っていきたいですね!
(キレイ研究室 研究員:船木)

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